コンサート雑感:オーケストラ・ラム・スール第8回演奏会を聴いて (original) (raw)
コンサート雑感、今回は令和6(2024)年5月4日に聴きに行きました、オーケストラ・ラム・スールの第8回演奏会のレビューです。
え?ラ・フォル・ジュルネではないんですかって言う、ア・ナ・タ。いやあ、値上げの影響は私にも出ておりまして・・・どこかで1日楽しもう!と思って残るように使ってきたのですが、それ以上に値上げのスピードが速く、今年はあきらめました・・・
その代わり、実は晩冬からずっとこのオーケストラ・ラム・スールさんの演奏会は狙っていました。いくつかのアマチュアオーケストラの演奏会でチラシを配っており、重複して捨てたり取らなかったチラシも随分あります。で、なぜこのオーケストラ・ラム・スールさんを聴きに行ったかと言えば、そのチラシに、「日本組曲」とあったから、です。これは珍しいなと思い、できれば行きたいとずっと思っていたのでした。
では、その日本組曲、1プロではと思いますよね?では、当日の曲順がどうだったかと言いますと・・・
①シベリウス 交響曲第6番
②バルトーク 舞踏組曲
③芥川也寸志 交響三章
④伊福部昭 日本組曲
えー!なんと、メインなんです!普通なら、1プロか2プロに持ってきますよね?でも、なんと!オーケストラ・ラム・スールさん、メインに持ってきたんです!当日びっくりしました。シベリウスの交響曲第6番が普通はメインです。でも、オーケストラ・ラム・スールさんはその常識を打ち破ったんです。正直、それだけで開演前からもうワクワクが止まりません!
オーケストラ・ラム・スールさんは東京のアマチュアオーケストラです。創立はなんと2020年。つまり、コロナの真っ最中に創立されたオーケストラだということになります。
orchestralamesoeur.wixsite.com
新型コロナウイルスは、海外から指揮者やアーティストを呼べなくなったことから、日本人演奏家の価値を見いだした事態だったと私は思いますが、このオーケストラにも、どこか確固とした信念を感じます。そして、何と言っても演奏レベルが高い!
まず、1プロのシベリウス交響曲第6番。シベリウスが作曲の晩年に相当する1910年代に作曲を始め、1923年完成、初演された作品。
指揮者の平林さんがプログラムに書いていますが、まさに「白鳥の歌」とも言うべき作品。そのせいなのか、幾分しっとりとした演奏だったのが印象的。それだけではなく、冒頭からアマチュアらしい不安定さが一切なく、もうプロと言ってもいいレベルなのです。それでいて、このオケ、チケット代取らないんです。取らない代わりに、終演後寄付を募るやり方。1000円札が乱れ飛んでいました・・・そりゃあそうなるだろうなあって思います。私は生活が苦しいのでほんの心遣いを・・・私もお札、入れたかった!
2プロはバルトークの舞踏組曲。交響曲の後に組曲を聴くという、本当に初めてと言っていい経験ですが、違和感ないのが不思議。しかもこの作品、6つの曲からなっており構成的にもまさに組曲です。そもそも、組曲は舞曲集なので、本来「舞踏組曲」という名称も変なのですが、バルトークが生きた時代は、組曲は意味としていくつかの曲の組み合わせという意味のほうが強くなっていたため、あえて「舞踏組曲」としたのだと思います。実際原題もTáncszvitです。
構造としては、第1舞曲から第3舞曲までがひとまとまりになっており、次に第4舞曲と第5舞曲、そして最終と3つの部分に分かれており、複数曲をリトルネッロでつなぐという手法を取っています。以下はフランクフルト放送交響楽団の演奏のYouTubeです。
はっきり言います、このhrさんよりずっと、オーケストラ・ラム・スールさんの演奏のほうが素晴らしい!特に、演奏に生命が宿っているかのような躍動感と、重厚なサウンドが特徴。いつの間にかノリノリになっている自分がいます。まあ、シベリウスの「白鳥の歌」とも言うべき作品とは真逆のような、祝祭緩にあふれる曲ですし。指揮者の平林さんの躍動する指揮も印象的でした。比較的若い人が多いオーケストラに、体を使って指示をする指揮者は相性がいいのだろうなあと思いましたし、まさに素晴らしいリーダーシップだと思います。
休憩後後半はオール・日本人作曲家プログラム。3プロが芥川也寸志の「交響三章」。初めて聴いたと思い込んでいましたが、実はこのブログでも過去に取り上げております。
まだ学生時代の作品ですが、今回の平林氏の指揮は、この作品には若き芥川也寸志のたぎる血潮がみなぎっていることを明確に示すものでした。フランス風の三楽章形式やそれぞれの楽章記載など、西欧の模倣ととれますがしかし実際に聴けば学生時代にもかかわらず芥川也寸志の個性がふんだんに散りばめられていることに気が付かされます。これも平林氏が指揮台で踊りまくる!それにつられたオーケストラのハイパフォーマンス!アマチュアらしいやせた音など一切ないサウンド!
そして、メインの「日本組曲」。伊福部昭の出世作とも言うべき作品です。
実は、全く同じホールで1プロにこの曲を持ってきたアマチュアオーケストラがあります。それが12年前に聴いた、私の初「ダスビ」体験であった、オーケストラ・ダスビダーニャ第19回定期演奏会です。
この時、ダスビは比較的速いテンポで入りましたが、オーケストラ・ラム・スールさんはむしろゆったりと入りました。そういえば、盆踊りって結構ゆったりとしたテンポが多いですし。それゆえか、私の脳裏には子供のころの盆踊りの記憶がよみがえりました。自分の中学校の校庭が解放され盆踊り会場になり、そこから聞こえる「東京音頭」や「炭坑節」。日本人にとっての舞曲はこれだよなあって思う瞬間です。その日本人の原風景を描くかのような解釈は、それまでの情熱的な指揮とは異なるアプローチが興味深いです。平林さんはおそらく、曲が持つ「魂」をスコアリーディングから掬い取っているのだろうと思います。実際、日本組曲は決して祝祭感がある曲ではないですし。
その一方、第3曲「演伶(ながし)」ではまるでちんどん屋。おどけた感じがまさに「ながし」を表現している印象です。伊福部の庶民文化に対する優しいまなざしと誇りが、存分に表現されていると思います。
そして、最終曲「佞武多(ねぶた)」これ、「ねぷた」になっているのが注目です。「ねぶた」ではないんです。「ねぷた」なので題材は弘前ねぷた。なので幾分しっとりとしつつも、祭りの感情の高ぶりが存分に表現されていますがオーケストラの表現力が抜群!以下に弘前ねぷたの様子を収録したYouTubeを張っておきますが、青森と比べて本当に静かな感じです。その下に、鉄道系YouTuberカコ鉄さんが青森ねぶたを見に行った動画を張っておきますが、その差が歴然です。如何に伊福部が弘前ねぷたを興味を持って見ていたかが分かります。果たして、青森ねぶただったら、伊福部はどんな曲を書いたでしょうか。
こう見てみると、平林さんがオーケストラに対して、2プロや3プロのような情熱的で比較的速いテンポではなく、むしろ1プロのシベリウスのようなしっとりとしたテンポを要求したのも、納得です。一方でオーケストラ・ダスビダーニャの長田氏は、曲が持つ庶民のエネルギーをスコアから掬い取っているといえるでしょう。どちらも魅力的な演奏ですが、今回、平林さんの解釈でさらに深い考察が出来、「日本組曲」という曲が様々な顔を持つ、日本が世界に誇るべき作品であることを知ることが出来たように思います。
そして、アンコールはできればこうなると外山雄三の「管弦楽のためのラプソディ」がいいなあと思っていたら・・・なんと!その「管弦楽のためのラプソディ」だったんです!これも実はオーケストラ・ダスビダーニャと一緒。やはり、芥川と伊福部ときたら、そうなるよねえって思います。そういえば、芥川と伊福部は師弟関係でもありますね。
外山さんのこの作品も、そもそもがNHK交響楽団のヨーロッパ公演に際して、日本的な作品をということで生まれたものですが、そこかしこに聴き馴染んだ民謡が散りばめられ、つい口ずさんでしまうにも関わらず、ラプソディとして高い芸術性を持つ作品に昇華されているのも魅力です。その魅力、そして魂を、もうプロレベルで実現するオーケストラ・ラム・スールさん。音楽監督に平林氏を選択したのはいいセンスだと思います。実際、平林氏はすでに世界で活躍する指揮者であられます。そのうえで、なんと広上氏のお弟子さんだそうで、道理で躍動感ある指揮をされると思います。以下は3プロの芥川也寸志「交響三章」のYouTubeですが、指揮は広上淳一。お弟子さんである平林さんはもっと躍動感ある演奏をされたのです。この先生にしてこの弟子という印象があります。
オーケストラ・ラム・スールさんと指揮者の平林遼さんのコンビ、これからも目が離せません!ぜひとも、第9回も聴きに行きたいと思います!
聴いて来たコンサート
オーケストラ・ラム・スール第8回演奏会
ジャン・シベリウス作曲
交響曲第6番
バルトーク・ベラ作曲
舞踏組曲
芥川也寸志作曲
交響三章
伊福部昭作曲
日本組曲
外山雄三作曲
管弦楽のための「ラプソディ」(アンコール)
平林遼指揮
オーケストラ・ラム・スール
令和6(2024)年5月4日、東京、隅田、すみだトリフォニーホール大ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。