所得税 (original) (raw)

所得税(しょとくぜい)とは、担税力の源泉を、所得、消費及び資産と区分した場合に、所得に対して課される租税のこと。所得税は広義の所得税と、狭義の所得税に分類できる。

  1. 広義には、狭義の所得税のほか、国税(中央税)における法人の各事業年度の所得に対して課せられる法人税地方税における住民税事業税などもこれに含まれる。
  2. 狭義には、個人の所得に課税される税金(国税)の事を指し、これを個人所得税という。この税金に係る実体法として、日本では所得税法(昭和40年3月31日法律第33号)がある。

ここでは、主に上記2.の個人所得税について記述する。

所得税は、累進課税や各種人的控除をミックスすることにより、租税の垂直的公平を保つのに有効な租税であるとされる。

現代の日本やアメリカでは国税の税目の内高い割合[注 1]を占める基幹税である。所得税の徴収方式としては確定申告で馴染み深い申告納税方式と源泉徴収方式がある。税収に占める割合は後者の方が高い。

OECD各国の法人および個人所得税率。

メリット

デメリット

所得概念論とは所得とは何かという議論である。所得税導入以来、様々な展開を見せてきた。

所得税の課税対象となる所得のとらえかたには次に掲げる通りいくつかの考え方がある。今日では、次の3つのうち、包括的所得概念が有力であるが、一方で、ヨーロッパ諸国では制限的所得概念の考え方も根強く、たとえば、ドイツフランスでは株式譲渡益が非課税とされる。また、北欧諸国では、主に包括的所得概念の非効率性に着目して、投資所得と勤労所得とを区分して前者には比例税率課税を行い、後者には累進税率を適用する二元的所得税が採用されている。

制限的所得概念

課税所得は、反復継続する活動から得られるものに限定し、偶発的・一時的なものは課税しないとする考え方。いわゆる取得型所得概念の一つ。

産業革命以降、資本の自立的運動(資本の循環)の結果として賃金利潤利子配当地代など、継続的・反復的利益が生み出されるようになっていった。それらは確実・安定的な税源であり、把握も容易だったため所得税の成立を促した。このような背景を元に、利益を生み出す源泉に着目して反復継続する活動から得られるもののみを所得とする学説(所得源泉説)が生まれる。この所得源泉説は国民所得論を基礎理論として19世紀から20世紀初頭のドイツドイツ帝国)を中心に唱えられた。

制限的所得概念を前提とした所得税には、所得を源泉によって分類し各所得ごとに異なった税率・税額を課税する分類所得税(イギリスなど)と所得の源泉別に純所得を算出しそれらを合算して課税する一種の総合的所得税(プロイセンやそれを参考にした戦前の日本など)がある。

消費型所得概念

課税所得は、所得の内、消費により効用の得られた部分とする考え方である。所得は人の一定期間の消費の総額によって測定されるため、貯蓄を所得から除外する一方、借入金による消費も所得に含まれることになる。ジョン・スチュアート・ミルアーヴィング・フィッシャーの理論によるもので、フィッシャー、カルドアにより提唱され今でも経済学者の間には根強い支持があるなど、理論的には一定の有用性が認められている

しかし、消費型所得税概念を採用する所得税(消費型・支出型所得税、支出税)はインドセイロン(現スリランカ)で短期間実施されたこともあるが定着しなかった。貯蓄除外に起因する課税の逆進性が増大し、より富裕層有利な状況となったこと、そもそもに消費の把握・帰属判定が困難であり、徴収効率の低下を招いたこと、及び最終消費者の非現業所得を消費概念に置換したことで、条理から乖離を招いたことなどが原因である。

ただし、支出税は内容的には一般消費税に類似するため、一般所得税としての附加価値税によって代替されているとも見ることができる。日本の内国税においても、消費税及び地方消費税が支出型所得税として事実上機能している。

包括的所得概念

ドイツの財政学者シャンツ(Georg von Schanz)が唱えた純資産増価説にはじまり、アメリカのヘイグ(Robert M. Haig)とサイモンズ(Herry C. Simons)によって発展した概念。シャンツ=ヘイグ=サイモンズ概念、ヘイグとサイモンズの頭文字をとってH-S概念ともいわれる[6][7]。課担税力を増加させる経済的な利得はすべて純資産の増加であり、所得であるとする考え方で、「所得=貯蓄+消費」という定式であらわされる。いわゆる取得型所得概念の一つである。一時的・偶発的な利得も所得となり、相続も所得としてみなす(相続税参照)。

包括的所得概念は公平負担の要請(担税力に応じた負担の原則)に適合し、20世紀の福祉国家に適した所得概念であったため、広い支持を集めることとなった。包括的所得概念を採用する総合累進所得税は全所得を1つの累進税率表で適応し課税することが可能になり、国家財政調達機能・再分配機能や景気調整機能・資源配分機能を高めることができる[8]

他方、問題点もあり、本来であれば、未実現の利得や帰属所得も課税の対象とされるべきであるが、捕捉ないし評価が困難であり、課税の対象とならない場合が多く、たとえば未実現の利得の一つであるキャピタル・ゲインは、実現されなければ課税されない[7]。また1970年代の経済停滞期のアメリカにおいて、包括的所得税の概念は、理論的には明快だが、現実の課税把握においては、概念の曖昧さを払拭できず、課税当局が所得の把握が困難であり、限界があるとして批判された。例えば、地下経済における所得などに対する把握は困難を極め、アメリカ社会において所得課税の不公平感が広がった。1980年代以降は、税率を一律にし、また税務上の手続きを簡素化かつ明瞭にするものとしてフラット・タックスという税案に関する議論が高まった[9]

歴史

この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。

日本の所得税は、課税標準として総所得金額、退職所得金額、山林所得金額の3つを設けている。これは、総合所得課税を基本としながら、退職所得及び山林所得については分離所得課税を実現するものである。

所得別負担割合

日本経済新聞記者滝田洋一によると2020年時点で個人所得税率0%(生活保護受給者等の所得税免除)~10%(年収330万円以下)の人が納税者全体に占める割合が**約81%**で大部分の者は負担していない。逆に、個人所得税率10%超(年収330万円越え)~20%(年収695万円以下)の人が約15%、個人所得税20%超(年収695万以上)の人が約4%である[13]

納税義務者

所得

以下にあげる10種類の所得について、それぞれの計算方法が定められている。従って、その計算方法の結果が所得金額となる。 以下、所得税法を「法」と表記する。

これらの内、利子所得、配当所得および不動産所得は資産性所得であり、給与所得、退職所得は勤労性所得である。事業所得および山林所得は、資産性所得と勤労性所得が結合したものといわれる。資産性所得と勤労性所得は、ともに恒常性所得に該当する。さらに、譲渡所得および一時所得は、臨時所得に該当する。そして雑所得は、これら9種類の所得のいずれにも該当しない所得をいう。

控除

所得税の控除は、次の態様に分けられる。

控除の種類を、主に所得控除と税額控除に分類した(便宜上住民税について併記した)。

税率

例えば所得額が700万円のときは、求める税額は次のようになる。

700万円(課税所得金額)×0.23(税率) - 63万6,000円(速算控除額)=97万4,000円(所得税)

それに、復興特別所得税が20,400円(≒97万4,000円 × 2.1%)が加算される。

さらに見る 課税される所得金額, 税率 ...

所得税の税額速算表(平成27年分より)[14]

課税される所得金額 税率 速算控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

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分離課税所得分

分離課税所得がある場合には、総合課税所得と合算せず、分離課税所得に次の税率を適用して算出税額を計算する[15]

計算式

所得税では、総合課税制度を採用しており、年間の各種の所得金額を総合計して所得税を算出するもので次の通り計算される[16]

(事業所得) + (不動産所得) + (利子所得) + (配当所得) + (給与所得) + (雑所得) = 経常所得

(経常所得) + (短期譲渡所得) + (長期譲渡所得 + 一時所得) × 1/2 = 総所得金額課税標準を算出してから、所得控除を適用する。

(総所得金額) - (所得控除額) = 課税総所得金額

と計算してから、所得税の累進税率をかける。

(課税総所得金額) × 累進税率 - (税額控除額) + (復興特別税) - (源泉徴収税額) = 申告納税額

復興特別税額は、2013年(平成25年)から2037年(令和19年)まで課される。税率は2.1%[17]

(申告納税額) - (予定納税額) = 納付所得税額

歴史

1887年(明治20年)導入

当初の所得税は年間所得が300円以上の者に対して課税した。だがこの時は個人課税ではなく、世帯合算課税方式が採用されて戸主が納税義務者とされた。プロイセンの制度を参考として、所得の多寡を5段階に区分し、最低1%(所得300円以上)から最高3%(3万円以上)の低い税率の累進課税方式を採用していた[18]。年間300円以上所得のある世帯の家長である戸主に限って課税の対象としたため、所得税を納税することがいわばステータスシンボルとなり、「富裕税」、あるいは「名誉税」との別名で呼ばれていたという説もある。なお、大部分の一般国民は所得税の課税対象外で、新税の対象とされたのは当時の全戸数(戸主の総数)の1.5%にあたる12万人が対象となり、納税額も国税収入のうちの0.8%程度であった。

この新税導入の動機としては、に対抗して海軍の増強・整備が急がれたこと、地租酒造税などに偏った租税負担のあり方が自由民権運動によって反政府側から批判されたこと、大日本帝国憲法によって設置が予定されていた帝国議会衆議院に納税額による制限選挙が導入されたために大規模土地所有者(地租の納税義務者)以外の資本家に対しても選挙権を保障して政治参加を認めるための環境整備のためなどが挙げられている。3年後の1890年(明治23年)に行われた日本最初の国政選挙である第1回衆議院議員総選挙においては満25歳以上の男性で直接国税15円以上を納付している者に選挙権が付与された。

1899年(明治32年)改正

所得を3種類に区分し、第1種を法人所得、第2種を公社債利子所得、第3種を300円以上の個人所得とした。

1940年(昭和15年)改正

法人税法の制定によって従来の第1種が所得税から分離されて法人税となった。また、分類所得税と総合所得税の2本立てとなり、前者において所得種類別に異なった税率を適用するとともに勤労所得への源泉徴収制度が導入され、後者において所得合計が5,000円以上の者に10-65%の高度の累進課税をかけた。

1947年(昭和22年)改正

申告納税の導入によって所得税の一本化(総合所得合算申告納税制度)が図られる。また、その後の改正で最高税率が75%とされていたが、インフレ利得者等へ重課するためとして85%にあげられた。

1950年と1953年の改正(シャウプ勧告の影響)

1949年(昭和24年)のシャウプ勧告は、このように高い所得税率は勤労意欲にマイナスがある等の理由で、所得税の最高税率を下げ、それを補うための補完税として富裕税を導入することを勧告した。この結果、1950年(昭和25年)の改正で所得税の最高税率が55%に抑えられ、同時に累進税率で富裕税が導入された。しかし、富裕税は日本に定着せず、3年後の1953年(昭和28年)に廃止されることとなり、代わりに所得税の最高税率が65%に戻された。

2006年、地方への税源移譲

2006年度税制改正では、所得税から個人住民税への税源移譲が実施された(三位一体の改革)。

税収の推移

日本の一般政府部門税収(GDP比)。棒グラフは総額。
青は個人所得税、橙は法人税、緑は社会保険、紫は消費税、赤は資産税。

さらに見る 年度, 計 ...

財務省の統計[19]を参照(単位:100万円。単位未満切捨て)。決算ベース。

年度 源泉分 申告分
1997年(平成 9年) 19,182,735 15,402,987 3,779,748
1998年(平成10年) 16,996,112 13,765,760 3,230,352
1999年(平成11年) 15,446,830 12,618,587 2,828,243
2000年(平成12年) 18,788,905 15,878,457 2,910,448
2001年(平成13年) 17,806,512 15,030,134 2,776,378
2002年(平成14年) 14,812,227 12,249,159 2,563,068
2003年(平成15年) 13,914,607 11,392,631 2,521,976
2004年(平成16年) 14,670,498 12,184,627 2,485,870
2005年(平成17年) 15,585,913 12,955,818 2,630,095
2006年(平成18年) 14,054,094 11,494,252 2,559,842
2007年(平成19年) 16,080,043 12,928,501 3,151,542
2008年(平成20年) 14,985,074 12,161,180 2,823,894
2009年(平成21年) 12,913,887 10,499,519 2,414,368
2010年(平成22年) 12,984,351 10,677,036 2,307,316
2011年(平成23年) 13,476,192 11,010,764 2,465,427
2012年(平成24年) 13,992,487 11,472,513 2,519,974
2013年(平成25年) 15,530,813 12,759,155 2,771,658
2014年(平成26年) 16,790,227 14,026,721 2,763,507
2015年(平成27年) 17,807,137 14,773,154 3,033,983
2016年(平成28年) 17,611,065 14,485,964 3,125,101
2017年(平成29年) 18,881,565 15,627,121 3,254,444
2018年(平成30年) 19,900,578 16,564,998 3,335,580
2019年(令和元年) 19,170,688 15,937,487 3,233,201
2020年(令和2年) 19,189,790 15,997,575 3,192,215
2021年(令和3年) 21,382,199 17,533,195 3,849,004
2022年(令和4年) 22,521,661 18,736,485 3,785,176
2023年(令和5年) 22,052,957 18,001,522 4,051,435

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注釈

  1. 日本においては2020年度以降、消費税が所得税を上回り、最大の税収となっている。

出典

  1. 八田達夫『ミクロ経済学II 効率化と格差是正』東洋経済新報社プログレッシブ経済学シリーズ、ISBN:978-4-492-81300-3、p468
  2. 三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、204頁。
  3. 谷口勢津夫『租税基本講義』第2版168 - 170ページ
  4. イタリアで所得税の前払い 物価手当、手直しも『朝日新聞』1976年(昭和51年)11月12日朝刊、13版、7面