根拠に基づく医療 (original) (raw)

曖昧さ回避 この項目では、医学におけるエビデンス(根拠、証拠)について説明しています。他の分野におけるエビデンスについては「エビデンス」をご覧ください。

根拠に基づく医療(こんきょにもとづくいりょう、Evidence-based medicine: EBM)とは、「個々の患者のケアに関する意思決定において、現在の最良のエビデンスを意識的、明示的かつ思慮深く用いること (conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence)」である[1][2]エビデンスに基づく医療とも呼ぶ。EBMの目的は、臨床医の経験、患者の価値観、および入手可能な最良の科学的情報を統合して、臨床管理に関する意思決定を導くことである。この用語はもともと、医学の実践を指導し、個々の患者に関する個々の医師の意思決定を改善するための手段を説明するために使用されていた[3]

医学および保健医療の分野におけるエビデンスとは、一般的には「科学的根拠」という意味である[4]。そして、ある治療法・検査法が、ある病気怪我・症状に対して、科学的に効果があることを示す根拠となる検証結果・臨床研究結果を指す[5]。EBMにおいては、メタ分析システマティック・レビューランダム化比較試験の実施と結果の採用が強く推奨されている。EBMが医療分野に及ぼした影響は大きく、パラダイムシフト[6][7]と称されている。この用語の使用は急速に広まり、患者に適用される指針を立案するにあたってエビデンスの活用に重点を置いた手法が取り入れられるようになった[8]。健康管理のあらゆる場面や、非医療分野における意思決定への取り組み方について説明する際にもこの用語が広がっていった。

EBM以前は病態生理学的に正しければ、診療結果も正しいだろうと考えられていた。例えば、抗不整脈薬によって不整脈を抑制すれば、死亡率も減るだろうと考えられていた。しかしこれはむしろ死亡率が上昇することが1991年のランダム化比較試験で実証された(CAST研究(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)(英語版))[9][10]。現代では、病態生理学的推論よりも臨床研究によって実証されたエビデンスが重視されるようになっている[9]

証拠(科学的根拠またはエビデンス)の強さは、上に行くほど強くなる。上に向けて蓄積されていくので二次研究が一次研究を拾いきれないラグも起こりうる。また効果のみを評価し副作用を考慮していない場合もある。
(ニューヨーク州立大学作成[11]

EBMピラミッドは、医学におけるエビデンスレベル英語版)を視覚化するのに役立つツールである。診療ガイドラインシステマティック・レビューはピラミッドの上部、すなわち権威があり、信頼がおけるものとされる一方、専門家の意見であってもピラミッドの下部に位置する[12]。動物実験に至ってはピラミッドの最下段にしかランクされない(右図)、または、ピラミッドに採用されていない[12]

EBMの利点は以下の通りである[13][14]

  1. 根拠に基づく医療は、特に誤った診断、時代遅れの危険な検査や処置、薬の過量投与に関わる有害事象を減らす可能性がある。
  2. 診療ガイドラインは、臨床医、患者、そして医療関係者以外の医療受益者の間のコミュニケーションを改善するための共通の枠組みを提供する。
  3. シフトの変更や複数の専門医に関連するエラーは、一貫したケアプランによって減少する。
  4. 治療やサービスの臨床的有効性に関する情報は、医療の提供者、消費者、購入者が限られた資源をより有効に活用するのに役立つ。
  5. 医療の進歩に伴い、医師や看護師はガイドラインが改善されるにつれて、新しい検査や治療に対応できるようになる。

EBMの欠点は以下の通りである[15][16]

  1. ガイドラインは一般的なスクリーニングのために作られたものではなく、むしろ個々の医療従事者が特定の患者を評価する際の意思決定ツールとして作られたものであるというエビデンスがあるにもかかわらず、マネージド・ケア(英語版)側は医療費削減のために"不必要な"サービスを制限しようとするかもしれない。
  2. 医学文献は進化しており、しばしば論争がある。ガイドラインの作成にはコンセンサスが必要である。
  3. ガイドラインを導入し、施設内の医療チーム全体を教育するには、時間と資源を必要とする(それは将来の効率化とエラーの減少によって回収できるかもしれない)。
  4. 医療従事者は、エビデンスに基づく医療を、患者、医師、その他の医療専門家の伝統的な関係を脅かすものとして抵抗するかもしれない。
  5. ガイドラインに従わない場合、規制当局による法的責任や懲戒処分のリスクが高まる可能性がある。

「根拠に基づく医療」(evidence-based medicine: EBM)という用語は、1990年にマックマスター大学のゴードン・ガイアット(英語版)によって導入されたものである[17][18][19][20]

エビデンスに基づく考え方の萌芽

医学には、ヒトの疾病の予防、診断、治療に関する科学的探求の長い歴史がある[21][22]。11世紀、ペルシアの医師であり哲学者であったイブン・スィーナーは、現在の考え方や実践とほぼ同様のEBMへのアプローチを開発した[23][24]

対照臨床試験の概念は、1662年にヤン・ファン・ヘルモントによって、瀉血の実践に関して初めて記述された[25]

病院から、キャンプから、あるいは他の場所から、熱病や肋膜炎を患う200人、いや500人の貧しい人々を連れ出そう。彼らを半分に分けよう。くじを引いて、半分を私の分け前に、もう半分をあなたの分け前にしよう。私は瀉血をせずに彼らを治療するが、あなたは知っての通り、思慮深い瀉血をする…。私たちふたりは何回葬式をすることになるのだろう......。

—ヤン・ファン・ヘルモント

対照臨床試験の実施と結果を記した最初の報告書は、スコットランドの海軍外科医ジェームズ・リンドによるもので、彼は海峡艦隊のHMSソールズベリー(英語版)に乗船し、ビスケー湾をパトロールしている間に壊血病の研究を行った。リンドは研究に参加した水兵を6つのグループに分け、さまざまな治療の効果を公平に比較できるようにした。リンドは、レモンオレンジで治療したグループの中で壊血病の症状や徴候が改善したことを発見した。彼は1753年にこの実験結果を記した論文を発表した[26]

医学における統計的手法の初期の批評は膀胱結石に関するもので1835年に発表されている[27]

臨床推論の限界の露呈

1967年にアルヴァン・ファインスタイン(英語版)が"_Clinical Judgment"_を出版し、臨床推論の役割に注目し、臨床推論に影響を与えうるバイアスを特定した[28]。1972年にアーチー・コクラン(英語版)が"Effectiveness and Efficiency"を出版し、それまで効果的であるとされてきた多くの診療には、それを裏付ける対照試験が無いと述べた[29]。1973年、ジョン・ウェンバーグ(英語版)は、医師がどのように診療を行っているかに大きな違いがあることを記録し始めた[30]。1980年代を通して、デイビッド・エディ(英語版)は、臨床推論の誤りやエビデンスのギャップについて述べた[31][32][33][34]。1980年代半ばには、アルビン・ファインスタイン、デイビッド・サケット(英語版)らが臨床疫学英語版)の教科書を出版し、疫学的手法を医師の意思決定に応用した[35][36]。1980年代末には、ランド研究所のグループが、医師が行う処置の大部分が、彼ら自身の専門家の基準に照らしても不適切であると考えられることを示した[37]

"Evidence based"の誕生

デイビッド・エディが「エビデンスに基づく(Evidence based)」という言葉を最初に使い始めたのは1987年で、専門医学会協議会から依頼された、診療ガイドラインを作成するための正式な方法を学ぶためのワークショップとマニュアルにおいてであった。このマニュアルは最終的に米国内科学会(American College of Physicians: ACP)(英語版)から出版された[38][39]。エディが「エビデンスに基づく」という言葉を初めて発表したのは1990年3月のことで、JAMA誌に掲載された論文で、エビデンスに基づくガイドラインと集団レベルの方針の原則を示したものであった。そこで、エディは、「政策に関連する利用可能なエビデンスを明確に記述し、標準的なケアの実践や専門家の信念ではなく、エビデンスに政策を結びつける。適切なエビデンスを特定し、説明し、分析しなければならない。政策立案者は、その政策がエビデンスによって正当化されるかどうかを判断しなければならない。根拠を書かなければならない。」と表現した[40]。彼は、1990年春にJAMA誌に発表された他のいくつかの論文の中で、エビデンスに基づく政策について論じている[40][41]。これらの論文は、1990年から1997年にかけてJAMA誌に発表された、集団レベルのガイドラインや政策を設計するための正式な方法に関する一連の論文28報の一部であった[42]

EBMの概念の確立

根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine: EBM)という言葉は、医学教育の文脈で、少し遅れて導入された。1990年秋、ゴードン・ガイアット(英語版)が、マックマスター大学での医学部入学予定者や新入生向けのプログラムに関する未発表の記述の中でこの用語を使用した[43]。ガイアットらは、2年後(1992年)に、医学の実践を教えるための新しいアプローチを説明するために、この用語を初めて発表した[3]

1996年、デイビッド・サケットらは、このEBMの支流を以下のように明確に定義した。「個々の患者のケアに関する意思決定において、現在の最良のエビデンスを良心的、明示的かつ思慮深く用いること…、また。個人の臨床的な専門知識と、体系的な研究から得られる最良の外部からの臨床エビデンスを統合することを意味する」[1]。EBMのこの支流は、研究からのエビデンスをよりよく反映させることで、個人の意思決定をより構造的かつ客観的なものにすることを目的としている[44][45]。効果的かつ効率的な診断、個々の患者の苦境、権利、嗜好の思慮深く特定し、思いやりをもって反映される臨床的専門知識を医療従事者が持っているという事実を尊重しつつ、集団ベースのデータが個々の患者のケアに適用される[1][46]

1993年から2000年にかけて、マックマスター大学のEBMワーキンググループは、JAMA誌に25の「医学文献ユーザーズガイド」を連載し、幅広い医師に向けてその方法を発表した。

1995年、ウイリアム・ローゼンバーグとアンナ・ドナルドは、個人レベルのEBMを「同時期の研究結果を見つけ、評価し、医学的判断の基礎として用いるプロセス」と定義した[47]。2010年、トリシャ・グリーンハル(英語版)は定量的な方法を強調する定義を使用した。「個々の患者の診断、調査、管理における臨床的意思決定に情報を提供するために、集団サンプルを対象とした質の高い研究から得られた有益性と有害性のリスクの数学的推定値を使用すること」[1][48]

前述の2つの定義は、EBMが集団に適用される場合と個人に適用される場合の重要な違いを強調している。個々の医師が修正する機会が比較的稀な状況で、大規模な集団に適用されるガイドラインを設計する場合、エビデンスに基づく政策立案では、検査や治療の有効性を文書化するための優れたエビデンスが無ければならないことが強調される[49]。個人の意思決定の場では、研究結果をどのように解釈し、自分の臨床判断と結びつけるかについて、医療従事者にはより大きな自由度が与えられる[1][50]。2005年、エディはEBMの2つの分枝に対する包括的な定義を提示した「EBMとは、医療上の意思決定、ガイドライン、その他の種類の政策が、可能な限り、有効性と有益性に関する優れたエビデンスに基づき、それらに合致したものとなるように意図された一連の原則と方法である」[51]

EBMの普及と発展

エビデンスに基づくガイドラインと政策の分野では、有効性のエビデンスに対しては明示的に徹底する方針が、1980年にアメリカがん協会によって導入された[52]。米国予防医学専門委員会 (USPSTF)(英語版)は、1984年にエビデンスに基づく原則に基づいた、予防介入のガイドラインの発行を開始した[53]。1985年、ブルークロス・ブルーシールド協会(英語版)は、新技術をカバーするために、エビデンスに基づく厳格な基準を適用した[54]。1987年以降、アメリカ内科学会などの専門学会や、アメリカ心臓協会などの非営利医療組織が、エビデンスに基づくガイドラインを多数作成した[55]。1991年、米国のマネージドケア(英語版)組織であるカイザーパーマネンテは、エビデンスに基づくガイドライン・プログラムを開始した[56]。1991年、リチャード・スミスはBritish Medical Journalに論説を執筆し、英国におけるエビデンスに基づく政策の考えを紹介した[57]。1993年、コクラン共同計画は、システマティックレビューとガイドラインを作成するために13カ国のネットワークを作成した[58]。1997年、医療研究品質局(英語版)(AHRQ、当時は医療政策研究局(AHCPR))は、ガイドラインの開発を支援するためのエビデンスレポートや技術評価を作成するために、「エビデンスに基づく診療センター」(Evidence-based Practice Centers: EPCs)を設立した[59]。同年、AHRQ、アメリカ医師会(AMA)、American Association of Health Plans(現在のAmerica's Health Insurance Plans(英語版))によって、エビデンスに基づく政策の原則に従った米国ガイドラインセンター(National Guideline Clearinghouse: NGC)(英語版)が設立された[60]。1999年には、英国に英国国立医療技術評価機構(NICE)が設立された[61]

医学教育の分野では、カナダ、米国、英国、オーストラリアなどの医学部が、EBMを教えるプログラムを提供している[62][63]。2009年に行われた英国のプログラムに関する調査では、英国の医学部の半数以上がエビデンスに基づく医療に関する何らかのトレーニングを提供していることが明らかになったが、その方法や内容はかなり異なっており、カリキュラムの時間や訓練を受けたチューター、教材の不足によってEBM教育が制限されていた[64]。しかし、個々の医師がエビデンスにアクセスしやすくなるよう、多くのプログラムが開発されてきている。例えば、臨床診療のデータベース、UpToDateは1990年代初頭に立ち上げられ[65]コクラン共同計画は1993年にエビデンスレビューの出版を開始した[55]。1995年には、BMJ出版グループは、医療従事者向けに重要な臨床上の疑問点に関するエビデンスの現状を簡潔にまとめた6ヵ月ごとの定期刊行物である_Clinical Evidence_を創刊した[66]。日本においては、日本医療機能評価機構が診療ガイドラインの作成マニュアルを無料公開している[67]

医療サービス・ガバナンス

2000年までに、エビデンスに基づくという用語の使用は、医療システム内の他のレベルにも広がった。その例として、エビデンスに基づく医療サービスがあり、これは医療サービスの意思決定者の能力を高め、組織や機関レベルでのエビデンスに基づく医療の実践を目指すものである[68]

エビデンスに基づくガイドラインや方針は、倫理的な臨床判断を志向する、経験に基づく実践と容易に「ハイブリッド化」できない可能性があり、矛盾、争い、意図しない危機を招く可能性がある[34]。最も効果的な「知識リーダー」(管理者や医療従事者のリーダー)は、意思決定において、形式的なエビデンスだけでなく、幅広いマネジメントの知識を用いている[35]。エビデンスに基づくガイドラインは、医療における統治性(governmentality)(英語版)の基礎を提供する可能性があり、その結果、現代の医療制度のガバナンスにおいて中心的な役割を果たしている[36]

エビデンスに基づくガイドライン作成のステップ

明確なエビデンスに基づくガイドラインをデザインするための手順は、1980年代後半に以下のように記述されている[33]

  1. 問題(クエスチョン)を明確にする(集団、介入、比較介入、アウトカム、時間軸、設定)。
  2. 文献を検索し、問題を示唆する研究を特定する。
  3. 各研究を解釈し、問題に関して何が述べられているかを正確に判断する。
  4. 複数の研究が問題を扱っている場合は、それらの結果を統合する(メタアナリシス
  5. エビデンスを表にまとめる。
  6. ベネフィット危害コストをバランスシートで比較する。
  7. 望ましい実践について結論を出す。
  8. ガイドラインを書く。
  9. ガイドラインの根拠を書く。
  10. 他の人にそれまでの各ステップをレビューしてもらう。
  11. ガイドラインを実践する。

個人レベルのEBM実践のステップ

医学教育や個人レベルの意思決定の目的で、実践におけるEBMの5つのステップが1992年に説明され[69]、2003年のEvidence-Based Health Care Teachers and Developers Conferenceに出席した代表者の経験が5つのステップにまとめられ、2005年に発表された[70]。この5つのステップのプロセスは、大まかに以下のように分類できる。

  1. 不確実性部分を回答可能なクエスチョンに変換する。それらには批判的クエスチョン、研究デザイン、エビデンスレベルが含まれる[71]。現在対処しなければいけない課題の中から、どのような情報が必要か、問題点を抽出する。問題(臨床疑問 (Clinical Question:CQ))の定式化の基本形は[72]
    • Patient:どんな患者が
    • Intervention (Exposure):どんな介入を行われる・暴露を受けるのは
    • Comparison:どんなものと比較して
    • Outcome:どうなるか、のように、4つのパーツで構成される。そのため、"four parts question" と呼ばれることもある。また、それぞれのパーツの頭文字を取ってPI(E)COと呼ばれる。なお、以下のように定式化されることもある[73]
    • P:Patients(患者)、Problem(問題)、Population(対象者)
    • I:Interventions(介入)
    • C:Comparisons(比較対照)、ControlsまたはComparators(対照)
    • O:Outcome(アウトカム)。以上にTimingとSettingを加えることもある[73]
  2. 入手可能な最善のエビデンスの体系的検索[74]
  3. 内的妥当性(英語版)に関するエビデンスの批判的評価:以下の側面に分けられる[46]
  4. 実践における結果の適用[75]。Step 4で考慮すべきことは、以下の4種が挙げられている[76]。このいずれかが欠けても問題が発生する。
    • リサーチエビデンス
    • 臨床状況と環境
    • 患者の嗜好と行動
    • 臨床経験
  5. 実績の評価[77]。上記の判断が正しかったかどうかを事後評価し、今後のプロセス改善につとめる。

過去のEBM教育ではこのStep 1〜3の方法論を研ぎ澄ませることに重きを置き、またStep 4については必ずしも言葉で説明を尽くされて来なかったことから、医療者の中には「良い臨床研究を見つけて医療をマニュアル化することがEBMである」との誤解が広まった時期がある[78]

エビデンスのレビュー

システマティック・レビューに用いられる文献の篩い分けの一例。一万近くの文献から最終的にレビュー対象となったのは6報のみ。

発表された研究を元にしたシステマティックレビューは、特定の治療法の評価の主要な部分である。コクラン共同計画は、システマティックレビューを行う最も有名な組織の一つである。他のシステマティックレビューの作成者と同様に、著者は文献検索とエビデンスの評価に関する再現可能な計画だけでなく、詳細な研究プロトコールを提供する必要がある[79]。最良のエビデンスが評価された後、治療は以下の3つに分類される。

  1. 有益である可能性が高い。
  2. 有害である可能性が高い。
  3. 有益または有害のいずれをも支持するエビデンスがない。

コクラン共同研究レビューグループ全50の1,016件のシステマティックレビューを2007年に分析したところ、レビューの44%が介入は有益である可能性が高く、7%が介入は有害である可能性が高く、49%が有益性も有害性も支持するエビデンスはないと結論づけられた。96%でさらなる研究が推奨されていた[80]。2017年には、米国の民間医療保険支払者の方針決定に情報を提供するためにコクラン共同計画が作成したシステマティックレビューの役割を評価する研究が行われ、米国の主要な民間医療保険支払者の方針文書がコクランのシステマティックレビューから情報を得ているものの、さらなる利用を奨励する余地が残っていることが示された[81]

エビデンスの質の評価

EBMでは、さまざまなタイプの臨床エビデンスを分類し、医学研究につきまとうさまざまなバイアスからの自由度の強さに従って、それらを格付けまたは等級付けしている[82]。例えば、治療的介入に関する最も強力なエビデンスは、均質な患者集団と病状を対象とし、完全な追跡を伴い、無作為化され、十分に盲検化されたプラセボ対照試験(英語版)のシステマティック・レビューによって提供される。対照的に、患者の証言、症例報告、専門家の意見でさえも、プラセボ効果、症例の観察と報告に固有の偏り、誰が専門家であるかを確認することが困難であるため、エビデンスとしての価値はほとんどない。ただし、専門家の意見は「経験的証拠(empirical evidence)英語版)の形式を表していないため、経験的証拠の質のランキングには属さない」という批判もあり、「専門家の意見は、経験的証拠のみに限定された階層には当てはまらない、別個の複雑なタイプの知識であると思われる」と続けられている[83]

いくつかの組織が、エビデンスの質を評価するための格付けシステムを開発している。例えば、1989年に米国予防医療専門委員会(USPSTF)は以下のシステムを発表した[84]

もう一つの例は、オックスフォード大学EBMセンター(Centre for Evidence-Based Medicine: CEBM)(英語版)が発表したオックスフォードCEBMエビデンスレベルである。2000年9月に初めて発表されたこのエビデンスレベルは、予後、診断、治療の効果、治療の有害性、スクリーニングに関する主張のエビデンスをランク付けする方法を提供するもので、当時ほとんどの評定方式では対応していないものであった。当初のCEBMレベルは、エビデンスを見つけるプロセスを実行可能にし、その結果を明示するために、Evidence-Based On Callとされた。2011年、国際的なチームがオックスフォードCEBMレベルを再設計し、より理解しやすくし、最近のエビデンスランキングスキームの進展を考慮した。オックスフォードCEBMエビデンスレベルは、乾癬における光線療法と外用療法の最適な使用に関する推奨[85]や、カナダにおける肝細胞がんの診断とモニタリングのためのBCLC病期分類システムの使用に関するガイドライン[86]など、臨床ガイドラインを作成するために、患者や臨床家だけでなく専門家も使用している。

2000年には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)ワーキンググループによるシステムが開発された。GRADEシステムは、医学研究の質だけでなく、より多くの側面を考慮に入れている[87]。GRADEシステムは、通常システマティックレビューの一環として、エビデンスの質の評価を実施する利用者に、結果の信頼性に対するさまざまな要因の影響を考慮するよう求めている。GRADE表の作成者は、観察された効果(数値)が真の効果に近いという確度の度合い(信頼値)に基づいて、エビデンスの質を評価するために4段階のうち1つを割り当てる。信頼値は、構造化された方法で5つの異なる領域に割り当てられた判断に基づいている[88]。GRADE作業部会は、質に基づく「エビデンスの質」と「推奨の強さ」を、互いによく混同される2つの異なる概念として定義している[88]

システマティックレビューには、バイアスのリスクが低いランダム化比較試験や、バイアスのリスクが高い観察研究が含まれることがある。ランダム化比較試験の場合、エビデンスの質は高いが、以下の5つの異なる観点で格下げされる可能性はある[89]

GRADEに基づく観察研究の場合、エビデンスの質は低いところから始まり、ダウングレードの対象となるほか、以下の3つの領域でアップグレードされる可能性がある[89]

GRADEによるエビデンスの質のレベルの意味は以下の通りである[88]

推奨のカテゴリー

ガイドラインやその他の出版物では、臨床サービスに対する推奨は、リスクとベネフィットのバランスと、その情報の根拠となるエビデンスのレベルによって分類される。米国予防医学専門委員会 (USPSTF)(英語版)は、以下のシステムを使用している[91]

GRADEガイドラインのパネリストは、さらなる基準に基づいて強い推奨や弱い推奨を行うことができる。重要な基準には、望ましい効果と望ましくない効果のバランス(コストは考慮しない)、エビデンスの質、価値観と嗜好、コスト(資源利用)などがある[89]

統計的尺度

EBMは、検査や治療の臨床的有益性を数学的手法で表現しようとするものである。EBMの実践で用いられるツールには、以下のものがある。

臨床試験の質

EBMは、研究者が論文で報告した技術を批判的に評価することにより、臨床研究の質を客観的に評価しようとするものである。

EBMには多くの限界と批判がある[97][98][99]。 EBMに対する様々な批判が発表されているが、広く引用されている分類法は2つあり、StrausとMcAlisterの3分類(医学の実践に普遍的な限界、EBMに特有の限界、EBMに対する誤解)[100]とCohen・Stavri・Hersh の5分類(EBMは医学の哲学的基礎に乏しい、エビデンスの定義が狭すぎる、エビデンスに基づいていない、個々の患者に適用した場合の有用性に限界がある、医師と患者の関係の自律性を低下させる)がある[101]

発表されている反論には以下のようなものがある。

2007年の研究では、100件のエビデンスのうち23件が2年以内に覆され、そのうち7件は出版された時点ですでに覆されていた[118]。2018年の研究「なぜすべての無作為化比較試験は偏った結果をもたらすのか」は、最も引用された10件のRCTを評価し、試験は、無作為化が可能な少数の質問セットしか研究できず、一般的にサンプルの平均的な治療効果しか評価できないことから、結果を別の状況に外挿する際の限界まで、研究に概説された他の多くのものの中でも、幅広いバイアスや制約に直面していると主張した[97]

EBMは強調されているにもかかわらず、検査や治療に対する患者の要求、エビデンスに関する情報へのアクセス失敗、科学的エビデンスの急速な変化のため、安全でない、または効果のない医療行為が行われ続けている[119]。例えば、2003年から2017年の間に、ホルモン補充療法が安全かどうか、赤ちゃんに特定のビタミンを与えるべきかどうか、アルツハイマー病患者に抗うつ薬が有効かどうかなど、何百もの医療行為についてエビデンスが変化した[120]。ある治療法が安全でないか有効でないことがエビデンスによって明確に示された場合でも、他の治療法が採用されるまでに何年もかかることがある[119]

エビデンスに基づく推奨が取り入れられなかったり、実施されなかったりする要因には様々なものがある[121]。これには個々の医療従事者や患者(微視的)レベルでの認識不足、組織レベル(中間)レベルでの制度的支援不足、あるいは政策(巨視的)レベル以上での支援不足などが含まれる[122][123]。また、大きな変化には、ある世代の医師が引退または死亡し、より新しいエビデンスで訓練された医師と交代する必要がある場合もある[119]

医師はまた、自分の逸話的経験と矛盾するエビデンスを拒絶したり、認知バイアス-例えば、治療拒否後に患者が死亡したような、稀ではあるが衝撃的な結果(利用可能性ヒューリスティック)の鮮明な記憶など-のために、エビデンスを拒絶したりすることがある[119]。「何かをするため」、あるいは患者の感情的なニーズに応えるために過剰な治療をすることがある[119]。患者が期待する治療とエビデンスが推奨する治療との間の不一致に基づいて、医療過誤の告発を心配することもある[119]。また、その治療が生物学的にもっともらしく感じられるため、過剰な治療を行ったり、効果のない治療を行ったりすることもある[119]

臨床ガイドラインを作成する者の責任として、ガイドラインの普及を促進するための実施計画を盛り込む必要がある[124]。実施プロセスには、実施計画、状況の分析、障壁と促進因子の特定、およびそれらに対処するための戦略の設計が含まれる[124]

EBMに関するトレーニングは、医学教育の一連の流れの中で提供されている[70]。医療従事者の教育のために、教育コンピテンシーが作成されている[125][70][126]

ベルリン質問票とフレズノテスト[127][128]は、EBMにおける教育の有効性を評価するための有効な手段である[129][130]。これらの質問票は様々な場面で使用されている[131][132]

24の臨床試験を含むキャンベル・コラボレーション(英語版)のシステマティックレビューでは、エビデンスに基づく医療知識と実践をeラーニングが有効に改善するかどうかが検討された。その結果、eラーニングは、学習しない場合と比較して、エビデンスに基づくヘルスケアの知識と技能を改善するが、態度や行動は改善しないことが明らかになった。eラーニングと対面式学習を比較しても、アウトカムに差はない。e-ラーニングと対面学習を組み合わせること(ブレンデッドラーニング)は、エビデンスに基づく知識、技能、態度、行動にプラスの影響を与える[133]。e-ラーニングの一形態として、EBMスキルを高めるためにウィキペディアの編集に取り組む医学部の学生もおり[134]、医学知識を伝えるスキルを高めるためにEBM教材を作成する学生もいる[135]


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