『47RONIN』 ファンタスティック・サムライ (original) (raw)
カール・リンシュ監督、キアヌ・リーヴス、真田広之、浅野忠信、柴咲コウ、菊地凛子、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、赤西仁、田中泯出演の『47RONIN』。
2D字幕版で鑑賞。
徳川幕府が国を治める時代の日本。異国人とのハーフであるカイは赤穂藩の藩主・浅野の娘ミカと心を通わせていたが、身分の違いにより彼らは現世で結ばれることはない。赤穂を狙う吉良の策略によって浅野は将軍より切腹を言い渡され、家臣の長・大石内蔵助は1年間牢獄に閉じ込められて赤穂藩士たちは追放となる。
参戦してきましたw
ハリウッドがキアヌ・リーヴス主演で忠臣蔵を映画化、というニュースはもう5年ぐらい前からあって(ところでこの記事の中にある牧瀬里穂主演の『Sakura: Blue Eyed Samurai』という映画はいつ完成したんですかね?“ポストプロダクション中”とあるが、そのような作品の存在を寡聞にして存じ上げないのですが^_^;)、かなり長い月日を費やして2011年にようやく日本人キャストが決定、撮影が開始されました。
もう製作発表のときから嫌な予感しまくりで、「…なんでキアヌ主演で、よりによって忠臣蔵なの?それのどこが面白いの?」と非常に残念な気持ちでいっぱいでした。
なんか『ラスト サムライ』をさらにダメにしたような(いや、嫌いではないですが)トンデモ大作になるんだろうなぁ、って。
で、ようやく予告篇が流れるようになって、案の定「どこが忠臣蔵」なヴィジュアルの謎の東洋を舞台にしたファンタジー・アクション、ってなことに。
ただし、今年はすでに『ウルヴァリン:SAMURAI』というこれまたなかなか強力なトンデモ映画がお目見えしていたので、ある程度は耐性ができてたというか、望むところだ、とw
それに、個人的には東洋風の異世界を舞台にしたファンタジー映画って観てみたいなーと思っていたので、“ファンタジー”であればどこの国だかわかんないような謎のニッポンでも映画として面白ければオッケーだし、興味が湧いてきたんですよね。
予告篇を観た限りでは、深作欣二監督の『里見八犬伝』のようでもあったし、なんとなく宮崎駿のアニメを彷彿とさせるところもあって。
『里見八犬伝』(1983) 出演:真田広之 薬師丸ひろ子 千葉真一 夏木マリ 志穂美悦子
冒頭で四十七士が追っていた獣は麒麟っぽいデザイン。目がいっぱいあるのは『アバター』か
まぁ、実際観てみたらそのとおりだったんですが。
『もののけ姫』『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ロード・オブ・ザ・リング』…。
予想をビタ一文超えないということでは、見事なまでに予想どおりの映画でした。
舞台が日本(という設定)でキャストのほとんどが日本人ということ以外、すべてがどっかから持ってきた寄せ集め細工みたいな代物。
四十七士の格好は「どこのレッドクリフだよ」といった感じだし、柴咲コウの格好なんかも韓国っぽかったりして。
あと、英語を喋ってる柴咲コウの声が別人でしたね。代役なんだろうな。それについて特に何も断わりがありませんが。たまに本人の声が混じるのでよけい気になった。
アメリカでも宮崎駿の『もののけ姫』や『千と千尋』が人気があるのは、きっとクロサワから続く「アメリカ人が観たい“日本”」のイメージに近いからなんでしょうね。
『ウルヴァリン:SAMURAI』と違って時代劇ということもあって日本でロケは行なわれず(CGで描かれた遠景の山々の形などマチャアキ主演の「西遊記」っぽかったりして、やはりイメージとしては中国なんだと思う)、撮影はイギリスやハンガリーのブダペスト、ドイツなど。
岩肌に大仏があったり、寝転んでる涅槃仏なんかはタイあたりのイメージか。
漠然とした“東洋”ってことね。
将軍様(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)は下駄履いてるし。カラコロいわせて。
“犬将軍”徳川綱吉はつるっぱげだったのかよ。どこの武蔵坊弁慶だ、と。
まともに日本の時代劇を研究してればそんなトンチキはやんないと思うんだが。
あちらの作り手さんたちは自分たちのイメージを優先させるから、彼らが思う「俺たちのジャパン」だったらなんだっていいんだろうな。
そんなこと言ったら、日本製の西洋風ファンタジーだってどこの国だかわかんないような西欧風だったり東欧風だったり中東風だったりがチャンポンになったものなんだし、お互い様なんですが。
で、そういうインチキ日本描写が耐えられない人はこの映画を観たら苦痛以外の何物でもないだろうけど、そういうの大好物だったり笑って楽しめちゃう人は、『ウルヴァリン:SAMURAI』同様にけっこう大掛かりな屋外セットを組んで撮ってるんで、それなりに見ごたえはあるんじゃないかと思います。
せっかくあんな巨大なセットをいくつも作ったにしては、映画の中でそれらをちゃんと活用できてたとは言いがたいけれど。
しょっぱなからジブリ風なんで忠臣蔵なんて最初からどっか行ってしまってるし、先ほども述べたようにファンタジー映画としてもけっして目新しい要素はない。
最初と最後のナレーションは物凄くシリアスにキメてるけど、中身がアレなんで説得力が微塵もありません。
では、これ以降
ネタバレがありますのでご注意ください。
先日TVで観た番組の中で、「忠臣蔵」は海外でも「47 RONIN」として有名で、日本に来て四十七士の墓参りをする海外からの観光客もけっこういるということで(俺だってしたことないのに)、なんかガイジンさんたちがインタヴューに答えてて「心を打たれる」みたいなこと語ってたんだけど、僕には彼らに忠臣蔵がウケる理由がよくわかんないんですよね。
役所広司主演の『最後の忠臣蔵』のときにも思ったんだけど、だってあれは殿中で刀傷沙汰を起こした主君・浅野内匠頭が切腹を命じられてお家は取り潰し、家臣一同路頭に迷って、逆ギレ状態で仇討ちとばかりに吉良上野介の首を獲ったどー、という、発狂したボスのせいで部下が全員犬死にしたアホみたいな話じゃないですか(※子孫のかたがいらっしゃいましたら大変申し訳ありませんが)。
浅野が吉良に斬りつけた真の理由は詳らかになっていないし、どちらにせよ浅野某というのはそんなことすればどうなるのか、お家存続や家臣のことも考えずに怒りに任せてムチャをやった時点で人の上に立つ資質のない人間だったわけで(※子孫のかたが…以下略)。
そんなくだらない話をさも「美談」のように語ることが、ずーっと疑問だったんですよね。
なので、海外のかたがたも何か勘違いしてるのではないのか、と。
ずらーっと並んでる赤穂浪士のお墓がちょっと『七人の侍』のラストを思わせるとか、あるいは「アーサー王伝説」みたいなものとして捉えているのではないだろうか。
主君の名誉のためにみずからの命を捨てる剣士たち。
なんかよくわかんないけど、サムライかっこええ!と。
ハラキリ、痛そうなのに我慢してすげぇ!と。
この映画では、浅野(田中泯)は吉良の配下であるミズキ(菊地凛子)の妖術によって幻覚を見せられて思わず寝床の吉良に斬りつけた、ということになっている。
浅野忠信演じる吉良は、ちょうど『里見八犬伝』の萩原流行みたいな悪役で、浅野の娘ミカ(柴咲コウ)を娶って浅野家を乗っ取ろうとしている。
どーでもいいけど、ミカとかミズキとか、キャバ嬢みたいな名前だなぁ。江戸時代のキラキラネームですか!
あと、吉良が「アサノ、アサノ」と言ってるのを聞いて、浅野はあんたじゃねーか、と。
それにしても『清須会議』観たときも思ったんだけど、あんなに簡単に人の部屋に入っていけるもんなの?
藩主だったらお付きの者がガードしてたりしないんだろうか。
なんかみんな仲良く一つ屋根の下で眠ってるんだよね。暗殺し放題じゃん。
わざわざ赤穂藩まで将軍綱吉が何度もやってくるのも意味わかんないし。
将軍様に会いにお前たちが江戸へ行けよ、と。
松之大廊下の刃傷があったのは江戸城ですよ^_^;
それはともかく、この映画ではストーリーを単純化して吉良=悪役にしているから、わかりやすいっちゃわかりやすい。
主君の仇を討ち、囚われ同然となったミカ姫を助けだすために四十七士が立ち上がる!!
「轟轟戦隊ボウケンジャー」などの出合正幸が、凛子ちゃんに操られて燃やされちゃう“磯貝”というキャラクターを演じている。
ちなみに四十七士の中に
礒貝正久という人物がいるが、当たり前だけど妖術使いに殺されてなどいない。
ヒドい扱いだな。
あと、四十七士の中にいた朗らかデブ。
名前が芭蕉(ばしょう)というんだけど、もちろんそんな奴ぁ実在の四十七士にはいない。
なんで芭蕉。知ってる日本人の名前をテキトーに付けたのか?
なんかコメディリリーフみたいな役回りで、おそらく『七人の侍』で千秋実が演じた平八と三船敏郎が演じた菊千代を合わせたようなキャラを狙ったんだろうけど、活躍する前にあっというまに殺されちゃうんであまり効果を上げていない。
『アバター』の先住民よろしく、主人公のカイ(キアヌ・リーヴス)を忌み嫌っていたが彼に命を助けられて途中で改心する安野(羽田昌義)にしても、人物描写が中途半端で物語の推進にまったく役に立っていない。
彼らに限らず、残念ながら四十七士の面々は大石内蔵助役の真田広之を除くとほとんど目立たずキャラも立っていないので、わずかに顔が判別できる数人以外は誰が誰なのかすらよくわからない。
もうあちらの作り手にとっては端役(つっても四十七士なんだから重要な役どころだと思うんだが)の区別なんか端からついてないのが丸わかりなのだ。
だったらそれこそ「里見八犬伝」みたいに、メンバーを数人に絞ればよかったのに。
大石内蔵助の息子、大石主税(ちから)を演じる赤西仁は、僕は黒木メイサのダンナさんということしか知らなくて、この映画でもそんな大活躍するわけでもなく、なんとなくいる、みたいなもったいない使われ方をしている。
「ヤスーノ!ヤスーノ!」言ってましたが。
これは単に、監督にキャラを描く力量がないだけじゃなかろうか。
子どもの頃に捕らわれたカイは英国人と日本人のハーフで、浅野の温情によって殺されずに赤穂の武士たちに仕えていたが、人とはみなされずに安野のように彼を見下す者もいた。
彼は赤ん坊のときに捨てられ、天狗に育てられる。
いいですね、トンデモっぽくて。
まぁ、牛若丸だって天狗に剣術教わったんだから、いいんじゃないの、とw
天狗というのは西洋人のこと、という説もあるので、そのあたりは知識を仕入れてきたのかな。
で、赤穂を吉良に乗っ取られた四十七士は、将軍に渡してしまった刀の代わりを手に入れるために、カイに連れられて天狗の棲む場所に向かう。
カイはかつてその地から人間の世界に逃げてきたのだった。
ザブングル加藤みたいな顔の天狗が出てきて、大石に幻覚を見せる。
このあたりもどういうことなのかよくわからないんですが、天狗様は大石が取り乱して自分の腰の刀を抜くかどうかを試したようで。
せっかくならカイが少年だった頃の修行の回想シーンとか入れたらよかったのに。
少年時代のカイを演じているダニエル・バーバーがキアヌによく似ててなかなかよかったんで、もっと彼のシーンを観たかった。
人数分の刀を手に入れた一行は、早速吉良を討ちにいく。
しかし、女狐ミズキのワナにハマって磯貝は焼死。
デブもカイに「子どもの頃、いじめてゴメン」と言い残して死ぬ。
それを見てカイをいじめたことを後悔する安野。
さっき指摘したように、デブが死ぬのも安野が反省するのも、ストーリーやキャラクターたちのドラマに何一つからんでいない。
主人公であるはずのカイすら、彼が何を考えて行動しているのか、その苦悩も葛藤もまったく見えてこない。
だから、『ラスト サムライ』のトム・クルーズと渡辺謙の関係をほぼ丸パクリしたカイと大石の間に築かれる絆も、その過程が不十分極まりないのでまったく共感を呼ばない。
う~ん、とてもプロのシナリオライターが書いた脚本とは思えませんが。
結局、天狗にもらった刀も特別な力が宿っているわけではなく、手に入れたアイテムが戦いを有利にしてくれるということもない。
なんか伏線も何も考えずに適当に書いてる感じなんだよなぁ。
『パシフィック・リム』の正義のロボット、イェーガーの操縦士から一転、妖術使いの女狐、その正体は巨大な竜というミズキを演じた菊地凛子はなかなかの悪役ぶりだったけど、彼女の演技のせいではないんですが、ファンタジー・アクション物としてクライマックスの戦いではもうひと踏ん張りしてほしかったところ。
彼女はこの映画で派手な見せ場を受けもっているキャラだったわけだから。
同様に、将軍の御前試合でカイを打ち負かす巨大な甲冑の剣士は、これまたせっかくの強敵っぽかったのに爆薬の爆発であっけなく四散してしまう。
奴隷船のシーンに出てきた全身ドクロのタトゥーの男なんかも、ポスターに写真が載るほどの活躍はまったくしない。
吉良もまた『グラディエーター』のホアキン・フェニックスみたいに家来たちと木刀で稽古するシーンがあって、ローマ皇帝以上に悪役っぽくしたかったのかより凶暴に描かれているのだが、いかんせん実際に大石と戦ったら瞬殺されてしまう。
あんた、マイティ・ソーの仲間だろ!?
み・か・け・だ・お・し。見かけ倒し(字余り)。
たとえば、ミズキの妖術と己の野心が融合して妖怪と対等な力を手に入れるとかさ。
吉良は敵の大ボスなんだから、大石が苦戦するほどの強敵じゃなきゃ盛り上がらないでしょ?
僕みたいなド素人でもわかることが、なんでハリウッドのプロのシナリオライターにわからないのか不思議でならない。
これはもう、本作品が長篇映画第1作目というカール・リンシュ監督が、この手のアクション物の勘所を外しまくってるとしか思えない。
この人がなんでこんな大予算の映画を任されたのか謎。
リドリー・スコットの後継者とか言われているらしいけど、
どこがっ。
キアヌのサムライ姿はなかなか似合ってましたよ。
鬼子として捨てられ天狗に育てられて戦いの技を身につけた男、というのは十分魅力的なキャラクターになりえたと思うし、やり方自体は必ずしも間違ってはいなかったと思うんで。
でも、そこで引っかかるのが肝腎の「忠臣蔵」の要素なんですよね。
いるか?それ、と。
これは『ラスト サムライ』が好評だったために立てられた企画なのは明白だし、すでに当初から『ロード・オブ・ザ・リング』と『グラディエーター』を合わせたみたいなのを、という非常に志の低い目論みだったことはわかるんだけど、だとしたらやっぱり彼らは不勉強でしょう。
日本を舞台にした伝奇物なら他にいっぱいあるんだから。
天狗から刀をもらう、というくだりなんかいかにもだし、仲間たちとの絆を描くんであれば先ほどの「里見八犬伝」でいいわけで、史実をもとにした仇討ち物をどうしてもやらなきゃならない理由がわからない。
海外でもポピュラーである(らしい)「忠臣蔵」にとらわれすぎて、ファンタスティックな要素を盛り込むのがおざなりになってしまったようで。
仇討ちしたあとに全員で切腹するとこを絶対に入れたかったということだろうか。
でもそのご執心の切腹シーンは、レイティングの関係でカットされたのか入っていませんが。
しかも、劇中では切腹や斬首シーンがあるのに血が一滴も出てこない。
ハルクみたいな大男を首チョンパしても血しぶきどころか床も綺麗なまま。
浅野忠信の生首を袋につつんでも血も滲まない。
なんだこりゃ。
それでなぜ「忠臣蔵」なんぞという血なまぐさい復讐劇をやろうとしたんだか、狙いやターゲットとしている客層が皆目わからない。
血しぶきをやらないんなら、普通に剣と魔法の冒険ファンタジーにすればいいじゃん。
普通以下の映画作るよりはさ。
『グラディエーター』どころか、これはソード・アクションとしてはかなりレヴェルの低い作品じゃないかと。
まともに斬り合いもしないようなチャンバラ観たって面白くないもの。
これなら「暴れん坊将軍」の殺陣の方がよっぽど迫力あるよ。
日本を舞台にして出演者のほとんどが日本の俳優で占められるハリウッド・アクション大作なんて貴重なんだし(『ラスト サムライ』からもう10年経ってる)、これが大成功をおさめればこれからもこういう映画が作り続けられる可能性だってあったのに(今後アメリカでの興行はどうなるかわかりませんが)。
だからこれを「健闘している」ととるか、「ダメなものはダメ」と厳しくジャッジするかは人によって違うでしょうが、僕はやっぱり手放しでは褒められないんだな。せっかくのチャンスだったのに、とてももったいないことをしてると思うので。
もっと面白くなったはずなんだよね。
面白くなる道具立ては揃ってるのに、ぜんぶ無駄にして捨てちゃったという。
日本の描写が正確かどうかなんてこと以前に、ファンタジー映画としていくつも失敗している。
俳優や美術よりもまず、シナリオライターと監督が作品に相応しくなかったのではないだろうか。
もっと低予算の映画から出直せ、と。
ぎゃあぎゃあやかましく文句垂れてきましたが、それぐらいツッコミ甲斐のある映画だ、ということですw
最後のお城での戦いはカタルシス不足ではあったけれど、ちょっとワクワクしました。
日常茶飯を描いたちまちました映画に飽きたら、たまにはこういう毛色の変わった世界に浸ってみるのもいいかもしれませんね。