フィリピン海 ~ 知ってますか? (original) (raw)
フィリピン海という名の海を御存知だろうか。フィリピン周辺の海かと言えば、それは正しくない。下図の如く、西側から右回りに言えば、フィリピン諸島、台湾、日本の南西諸島・九州・四国・本州・伊豆諸島・小笠原諸島、マリアナ諸島、ヤップ・パラオ諸島などに囲まれた広い海域のことである。地理用語で、大洋の周縁部で島や半島によって大洋から区切られた海域を「縁海」という。日本列島周辺の日本海、東シナ海、オホーツク海などもそうなのだが、フィリピン海も同じく太平洋の縁海である。
国際水路機関という国際機構がある。国際航海の安全のために種々の国際的調整を行っている。国によって海の呼び方が異なっては、国際航海上具合が悪いから、世界の各海域の名称とその範囲をこの機関が定めている。「日本海」の名称もこの機関によって公式に定められたものだが、これに韓国が異議を申し立て、さらに日本が反論を申し立てるという経緯があったように、日本政府も加盟しその権威を認めている機関である。その機関によって「フィリピン海」は1952年にその名称と範囲が定められている。したがって、日本の静岡県、三重県、和歌山県、高知県、宮崎県などの南の沖合いの海は、フィリピン海と呼ばれるのが世界標準ということになる。(Googleマップは世界標準に従って表示しているようだ。)
しかし、日本ではこの海も太平洋と呼ばれている。フィリピン海という名称は全く浸透していない。高知の海岸・桂浜に立つ坂本龍馬の像が見つめる海は太平洋であって、誰もフィリピン海などとは思っていない。気象予報でも日本海側に対してこの海の側を太平洋側と呼んで憚らない。そもそもフィリピン海という海があることすら知られていないだろう。
三重県・熊野の海
世界標準では「太平洋」ではなく「フィリピン海」だ。
まあ、学校で教えられないのだから無理もあるまい。学校で、日本の周囲の海として太平洋、日本海、東シナ海、オホーツク海は習ったが、フィリピン海も教えられたという記憶がある人は皆無のはずだ。高校の教科書となっている地図帳を確認してみる。まず、近畿地方の図版では、紀伊半島の南の海に太平洋と書かれている。フィリピン海という文字は見当たらない。四国、九州の図版でも同様だ。フィリピン海の文字があるのは、東南アジアを描いた図版で、フィリピン諸島のすぐ東側に小さく書かれている。あたかも、フィリピン諸島に沿った部分のみがフィリピン海だというような書き方だ。本来のフィリピン海の方には太平洋と書いてある。
二宮書店「詳解現代地図最新版2024-2025」118頁の一部を複製加筆
同上36頁の一部を複製加筆
日本の公教育で、日本の周囲の海のうち、フィリピン海についてだけ世界標準を採用しないのは何故なのか。文科省に理由を聞いてみたい。またいつか尋ねてみよう。この海域を「フィリピン海」と呼んで他と区別するようになったのは、太平洋戦争の頃、アメリカ海軍内が始まりと言われている。教科書制度発足当時、日本海や東シナ海のように日本で以前から馴染みのあった名称ではなかったことが、採用されていない一因なのかもしれないが。
日本列島に面する部分に限って言えば、フィリピン海は黒潮の流れる海だ。日本のフィリピン海沿岸地域にはこの強い暖流によって育まれた共通の風土があると感じる。寒流の親潮の影響を受ける、本来の太平洋岸の地域(北海道東南岸、東北地方の東岸、関東の東岸)とは気候や文化も異なる。したがって、日本でこの海をフィリピン海と呼んで太平洋と区別することには意義があると私は考える。「フィリピン」という一国に通じる名に抵抗があるなら、別の名称でも仕方ない。「黒潮海」とか「南海」とか。