ドレスコーズ「1」特集 志磨遼平×尾崎世界観(クリープハイプ)対談 (3/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

あまのじゃくな2人

志磨 似てるとこはほかにもいっぱいあると思う。例えば、あまのじゃくなところとか。

尾崎 そうですね。なんでそうなっちゃうんだろうなって思うけど、「苦い」っていうのを「甘くない」って言うとか(笑)。

志磨 あはは(笑)。

尾崎 「苦い」でいいのに。でも、1行で言えるところを2行使いたくなるんですよ。だから町田康さんの小説が好きなんでしょうね。

志磨 ああ、なるほど。あの人の文章、最後の1行だけでいいもんね。

尾崎 でもいいですよね、それだけ言葉があるっていうのも、それをいいと思える余裕があるのも。だからそういうのに対して「回りくどいな」って言う人とは友達になれないですね。

フロントマンとして

尾崎 でも、フロントマンとしては、志磨さんとは対照的だなって思いますね。ドレスコーズっていうもので自分を表現したい志磨さんと、クリープハイプっていうものにすごく苦しめられてる僕と。その気持ちがステージに出てると思うので、2人ともまったく違うパフォーマンスをしてると思う。

志磨 うんうん。ステージの自分は……いい感じ? 理想的?

尾崎 いやあ、ダメですね俺は。

志磨 へえー。あのね、浅井健一さんにも同じことを思うんだけど、マイクに向かうフォームがカッコいいよね。マイクスタンドの前に立って歌うときの角度とか。

尾崎 はははは(笑)。

志磨 こう(顎を上げる)歌うでしょ? すごいカッコいい。

尾崎世界観

尾崎 ありがとうございます(笑)。志磨さんは役者に近いというか、バンドのボーカルとしてのステージをやっている印象がありますね。いろんなことを引き受けてライブしてるなあって思います。

志磨 前、高校生時代からの地元の友達としゃべってたら、「今までずっと思ってたんやけど、すごく無理してるように見えるよ。ステージで大暴れしてのたうち回ってとか、もともとそういう子じゃないやん!」って言われたことがあって。

尾崎 ああー、ははは(笑)。

志磨 ほんとの僕はああいうスタイルでは絶対になくて、ああいう人になりたいのよね。僕は僕じゃなくて、なりたい人を演じてる。だから今言ってもらったことはまさしく本当かもしれない。

尾崎 その友達と話したとき、結論はどうなったんですか?

志磨 ええと……「どっちがいいと思う?」って聞いた(笑)。その子はね、地元の和歌山の友達がよく知る「志磨ちゃん」のままで全然いいのにって。んで、なんか東京に行って変わったヤツみたいな結論になった(笑)。

尾崎 「変わった」とか言われますね。まあでも、変わりますよね。

志磨 そりゃそう。変わりますとも。

曲しかしがみつけるものがなくなる

──ドレスコーズは「1」、クリープハイプは「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」と、両組とも同時期にアルバムをリリースしますね。

尾崎 いやあ、ほんっとにいいアルバムでした。

志磨 いや、こちらこそほんとにいいアルバムでした。そもそも、クリープハイプってすごく良心的な売れ方をしているバンドですよね。曲がいいからみんなが聴きたがる、っていうあまりにシンプルで強い理由しかなくて。バンドとして一番そうであってほしい形だから……いっぱい悔しいところがあって、今まで好きとすら言えなかった。ふふふ(笑)。

尾崎 ははは(笑)。うれしいです、ありがとうございます。「1」の曲はメンバーが辞めることが決まってから書いたんですか?

志磨 そう、1人になってから書いた。2週間くらいでデモ作って、2週間で録った。

尾崎 4人である程度制作してたんですか?

左から志磨遼平、尾崎世界観。

志磨 いや、4人で作ってたのは、この前のミニアルバム(「Hippies E.P.」)に全部入れて。これはもう全部1人です。

尾崎 すごいですね……。でもそういうときはもう、曲作るしかないですもんね。できることがそれしかなくなるから。俺も、1回メンバーが全員やめて1人になったときは、まず曲作ろうって思ってた。それしかもうしがみつけるものがなくて。

志磨 そういうときこそ曲を書きたくなるっていうね。そんな自分をイヤだなと思いつつ、今書いたら絶対いい曲が書けるなっていうのもわかるし。

尾崎 俺は「1」から爽快な感じを受けるんですけど、そこには「もうこれしかないんだ、しょうがないじゃん」みたいな清々しさがあるような気がしていて。そっちのほうがすごく信用できるんですよね。俺「大丈夫」って曲を書いてるんですけど、それはスナックでうさんくさいおばちゃんに「あんた、大丈夫だからね」って無責任に言われてるイメージで。そっちのほうが信じられるなっていうか(笑)。

志磨 ああ、なるほどね!

尾崎 最近は悩みを聞いてもらうときも、相手が親身になってくれればくれるほど「わかってくれないな」って思ってしまって。相手には申し訳ないんだけど。

志磨 なんでそういう言葉って距離があるほうがすぐに受け入れられるんだろうね? 「あーだいじょぶだいじょぶ!」みたいな。

尾崎 うんうん、そうですよね。「いやいや、お前何も考えてないだろ!」っていうやり取りで元気になってくっていうか。

ドレスコーズ

ドレスコーズ2012年1月1日に志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、同年2月に山中治雄(B)が加入する。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月にフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマ「トートロジー」を含む2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。2014年9月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへの移籍第1弾作品として5曲入りCD「Hippies E.P.」をリリースし、同時に丸山、菅、山中の脱退を発表した。ドレスコーズは志磨の単独体制となり、同年12月にフルアルバム「1」をリリースする。

クリープハイプ

クリープハイプ尾崎世界観(Vo, G)、長谷川カオナシ(B)、小川幸慈(G)、小泉拓(Dr)からなる4人組バンド。2001年に結成し、2009年に現メンバーで活動を開始する。2012年4月にアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」をメジャーレーベルからリリースし、同年10月に発表した1stシングル「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」がオリコンCDシングル週間ランキングで初週7位にランクイン。2013年5月の3rdシングル「憂、燦々(ゆう、さんさん)」は資生堂「アネッサ」のCMソングに採用された。2014年12月に3rdアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」をリリースした。