ドレスコーズ「1」特集 志磨遼平×尾崎世界観(クリープハイプ)対談 (4/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

作詞の企業秘密

尾崎 ところで歌詞はどんな感じで書いてるんですか?

志磨 最初はノートに書いてて、次にノートからパソコンにしたんだけど、今回はついに携帯電話になった。寝転んでiPhoneで書くっていう。

尾崎 俺はいっつもベッドで、携帯のメモ画面で書きますよ。

志磨 おっ、一緒だ。

尾崎 ずっとそうでした。歌詞でけっこう韻踏んだりすることが多いんですけど、それも文字変換とかで……。

志磨 ええー! それ言っちゃうんだ。企業秘密じゃないの?

尾崎 いやいや(笑)。

志磨 いや、実は僕もやってんの。

尾崎 あはははは(笑)。

志磨遼平

志磨 あれ便利な機能だよね! 作詞家にとって。ひらがなで打ったら漢字が3つくらい出てくるから、じゃあもう1行目それで2行目これでいいじゃんって(笑)。

尾崎 逆に、出てきた言葉に意味を持たせることもけっこうありますよね。「ああ、この読み方もできるなあ。じゃあ2番はどういう歌詞にしたらこの意味につながるだろう」って。

志磨 うんうん。その間を補足したら、「あ、もうこれBメロの歌詞でいいじゃん」って(笑)。

尾崎 僕は10代のときからそれでやってますね。ノートに書くと字が汚すぎて落ち込んで、もうやる気なくなっちゃうんですよ。

志磨 僕もノートに書いてたときは、書き直すときの黒いゲジゲジが増えれば増えるほどもう鬱々してた。ノートが真っ黒になって「うわあーもうこんだけ悩んでるんや」っていうのが視覚化されて。

尾崎 ああー。でも、それでテンション上がる人もいるんでしょうね。クシャクシャに丸めた紙があればあるほど俺やってる!って思う人。俺はイヤですけど。……ちょっと企業秘密バラしちゃいましたね。これから「あいつらは文字変換で書いてんな」って思われる(笑)。

志磨遼平 vs. クリープハイプ

志磨 「百八円の恋」とか素晴らしいですよね、歌詞。ほんとすごい。「百円の恋に八円の愛」ですよ!?

尾崎 ありがとうございます。

志磨 びっくりした。もうほんとにねえ、今日ようやく会えて、いろいろしゃべれて。やっと今日から素直にクリープハイプを聴ける。

尾崎 あははは(笑)。志磨さん、「オレンジ」みたいな曲……っていう話、松居(大悟)くんに聞きました。

志磨 あ……その話するん?(笑) いや、去年タイアップが付くシングルを出すっていうのが決まったとき、レコード会社に「“ガッツリ”したのをお願いします」って言われたんですね。「わかりました。“ガッツリ”ですね」ってがんばったんだけど、なかなかOKが出なくて。曲にOKが出ないのも、4曲5曲出してその中から向こうが選ぶっていう、自分の曲が秤にかけられるのも初めての経験だったの。だから「何を求められてるんだろう」ってうんうん唸ってたら、レコード会社の人から「こういう曲だよ」って「オレンジ」のデータが添付されたメールが来て。

左から志磨遼平、尾崎世界観。

尾崎 ははははは(笑)。

志磨 で、僕めっちゃ聴いたの! 「オレンジ」のような曲をがんばって書こうとして。

尾崎 それが「トートロジー」?

志磨 そう、「トートロジー」。まあ結局は似たのか似なかったのかわからないけれど。で、ちょうど曲のことで悩んでたとき、雑誌を開いたら尾崎くんがドーンて載ってて。「うーん……」と思いながらも読んだものの、「……ああああーっ」てなって、バン!って閉じて「ラジオ聴こ!」ってラジオつけたら「憂、燦々」が流れてきたんですよ(笑)。で、「あ、これが“ガッツリ”ってことか!」と思って。

尾崎 “ガッツリ”(笑)。

志磨 「憂、燦々」はすごく好きなんですけどね。でも去年の夏は、「こういうのを求められてるわけだ」ってむっちゃくちゃ悩んだんですよ。カッコ付けなんでこんな話あんまりしてないんですけど……そういう、僕とクリープハイプの夏があった。

意味がないことを歌う

志磨 さっきの山登りの話で言うと、たぶん2人とも同じ山道を歩いてて、僕はそれを俯瞰というか、山の上をヒューと飛んでるトンビみたいな目線なんですね。でも尾崎くんは下を向いて山道を登ってる。お花なり、せせらいでる川なり、そういう道の光景を歌ってて。そういう違いはあるんだけど、たぶん大きなテーマは一緒なんだよね。

尾崎 そうですね。その先に何もないっていうことを知ってる、っていう。

志磨 そうそうそうそう。

尾崎 「何もないんだよ」って言いたいんですよね。周りからは「また尾崎なんか言ってるな」みたいにバカにされたりするけど、「そんなのしょうがないじゃん。何もないのは本当なんだから」ってことをすごくドラマチックに伝えたいんです。そういう悲しみとか満たされない気持ちみたいなものは、曲になるとすごく救われるじゃないですか。言葉をメロディで歌うことによって、そういう気持ちが浄化されるっていうか、報われるっていうか。「1」からはそれをすごい感じるんですよ。アルバム全体にすごい喪失感があって空っぽなんだけど、なんか救われるなあっていう。何もないことを歌うことに意味がないって言う人もいるとは思うんですけど、僕にとってはすごく意味があるんですよね。

志磨 ね。意味がないからなんなの?ってね。意味がないのに、こんなにもドラマチックなのはどうしてよ?っていうことがすごい泣けるのよね、なんか。そういうところが僕らの歌は似てるんですね。

尾崎 志磨さんの場合はたぶん頭の中で全部の音が鳴ってるんですよね。俺にはそこまでは見えなくて、曲を作るときは弾き語りの状態にしかならないんですよ。色がつかないというか、白黒の状態で見える。写真で言ったらカラーじゃないんですよ。そこからカラーにするには、バンドメンバーっていう人たちが必要で。

志磨 あーなるほど、すげえわかりやすい。なるほどね。

尾崎 その差はすごく感じるからうらやましいなとも思うし。でもまあ、俺はこのままでいいなと思うところもあって。

志磨 こっちとしても1人だと何かが入るスキがないから、寂しいとか思うんだよね。ないものねだりだね。

尾崎 そうですね(笑)。

左から志磨遼平、尾崎世界観。

ドレスコーズ

ドレスコーズ2012年1月1日に志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、同年2月に山中治雄(B)が加入する。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月にフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマ「トートロジー」を含む2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。2014年9月にキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSへの移籍第1弾作品として5曲入りCD「Hippies E.P.」をリリースし、同時に丸山、菅、山中の脱退を発表した。ドレスコーズは志磨の単独体制となり、同年12月にフルアルバム「1」をリリースする。

クリープハイプ

クリープハイプ尾崎世界観(Vo, G)、長谷川カオナシ(B)、小川幸慈(G)、小泉拓(Dr)からなる4人組バンド。2001年に結成し、2009年に現メンバーで活動を開始する。2012年4月にアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」をメジャーレーベルからリリースし、同年10月に発表した1stシングル「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」がオリコンCDシングル週間ランキングで初週7位にランクイン。2013年5月の3rdシングル「憂、燦々(ゆう、さんさん)」は資生堂「アネッサ」のCMソングに採用された。2014年12月に3rdアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」をリリースした。