富士急行5000形電車とは - わかりやすく解説 Weblio辞書 (original) (raw)

富士急行5000形電車
富士急行5000形電車(2018年1月20日 寿駅 - 三つ峠駅間)
基本情報
製造所 日本車輌製造[1]
製造数 2両編成1本
運用開始 1975年3月12日
運用終了 2019年2月23日
主要諸元
編成 2両
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500 V架空電車線方式
最高運転速度 65 km/h[1][2]
起動加速度 2.9 km/h/s[1][2]
減速度 3.5 km/h/s[1][2]
編成定員 144(席)+112(立)=256名[1]
編成重量 81.0 t[1](各車40.5 t[1]
最大寸法(長・幅・高) 20,000 ×2,950 ×3,884 mm[1]
車体 普通鋼
台車 揺れ枕吊り式コイルばね台車ND112[1]
主電動機 直流直巻電動機 MB-3054-D[1][2]
主電動機出力 75 kW(一時間定格)[1][2]
駆動方式 WN駆動方式[2]
歯車比 98:15(6.53)[2]
制御装置 抵抗制御・直並列組合せ・弱め界磁ABFM-108-15MDHA[1][2]
制動装置 発電ブレーキ併用電磁直通空気ブレーキ(HSC-D)抑速ブレーキ直通予備ブレーキ手ブレーキ[1]
保安装置 ATS-SN
第16回(1976年 ローレル賞受賞車両
テンプレートを表示

富士急行5000形電車(ふじきゅうこう5000がたでんしゃ)は、1975年昭和50年)に富士急行が導入し、2019年平成31年)まで同社に在籍していた電車である。3100形事故廃車補充と将来の増備車の先行試作を兼ねて、2両編成1本が日本車輌製造で製造された[2][3]

概要

富士急行が自社発注した最後の鉄道車両である。地方私鉄としては意欲的な冷房付き新造車であったことが評価され、1976年(昭和51年)度鉄道友の会ローレル賞を受賞した。形式名の「5000」は、昭和50年に登場したことに由来する。

外観

車両長20,000 mm、最大幅2,950 mmと地方私鉄としては大型の車体を採用した。衝突対策として高運転台構造を採用し、正面下部にはステンレス製のバンパーを装備する[3]。車体の裾を絞ったスタイルとしている点は115系などの日本国有鉄道(国鉄)の近郊形電車に類似するが、フロントデザインは独自のものとなった。各車運転台側の連結器は密着連結器、車両間の連結器には棒連結器を採用した[3]

登場時の車体塗装は客用窓下に幅150 mmの白帯を引き、それより上部をオーシャングリーン、下部と連結面をサランダブルーで塗装したものであった[3]

車内

| | | | | ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ | | ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- | | 2007年以前の車内 | | 2007年以降の車内 |

客用扉は、幅1,300 mmの両開扉を片側につき2か所備えている[3]。座席は、扉付近にロングシート、扉間および車端にボックスシートを備えるセミクロスシート配置である。クロスシート部分のシートピッチは最大1,520 mmと国鉄の急行型である165系普通車よりも快適性を重視したものとなっている[4]。またコストダウンの見地から国鉄電車と同一の部品が一部(灰皿など)に用いられている[4]

空調には富士急行の車両として初めて冷房装置を採用し、冷凍能力10,000 kcal/h(11.6 kW)の三菱電機製CU-121分散式冷房装置を屋根上に4基搭載した[3]。車両当たりの定員は128名(座席72名)である。

落成当初は車内案内装置は放送装置のみであったが、のちに客室内にLCDを設置し、次駅案内や次駅周辺の観光案内などを表示している。またボックス席を1区画分撤去して清涼飲料水自動販売機が設けられた。

機器

モハ5001(M'c) とモハ5002 (Mc) がユニットを組んでおり、モハ5001に電動発電機空気圧縮機といった補機類を、モハ5002に主制御器パンタグラフを搭載している[3]

主制御器は三菱電機製ABFM-108-15MDHAで2両分8台の主電動機を制御し、勾配対策として抑速ブレーキ発電ブレーキを装備する。顕著な特徴は定員200 %の乗車時に40 勾配上で2回連続の起動が可能かつ100 %乗車時・33.3 ‰勾配上で4台の主電動機をカットした状態において1回力行が可能なことである[1]。また、ブレーキとマスコンを同時に操作した場合はマスコンの操作が優先されるため勾配上での発進が容易な構造となっている。抑速ブレーキは河口湖-大月間での抑速運転が可能であり、ブレーキ速度は最高ノッチ時・40 ‰勾配では約57 km/hとなっている[1]

主電動機は営団3000系電車が採用した物と同じ系統に属する三菱電機製MB-3054-D[注釈 1]を搭載し、駆動装置はWNドライブのWN-1028で歯車比も営団3000系と同じく98:15である。

空気ブレーキ装置は前述の発電制動と併用するタイプである電磁直通ブレーキのHSC-Dで、他にブレーキ故障時にそなえて直通予備ブレーキ、また手ブレーキを1両あたり2台装備している。ドアエンジンは国鉄115系で実績があるTK-8で半自動開閉に対応し、寒冷地対策としてドアレール部分にはヒーターが設置された。それ以外にも冬季の夜間滞泊時に機器の凍結を防止するために各所にヒーターを設けており、これらのヒーターに一般家庭用のAC100 V電圧を給電するためのコンセント変換装置をモハ5001に備える[1]

電動発動機は冷房装置用の電源を供給するために大容量のMG-111A-S(出力75 kVA)、空気圧縮機はレシプロ式のC-1000(定格吐出量1120 L/min)を採用した[3]

台車はND-112形[注釈 2][5]と称し、国鉄DT21形台車と同型の軸箱支持装置はウィングばね式枕ばねにはコイルばね(オイルダンパ付き)を用いたオールコイルばね台車であり、M'c車の連結面側台車には車輪フランジの摩耗対策[3]として噴射式軌条塗油装置を、各車運転台側台車には排雪器(スノープラウ)を装備する[6]

運用

2000年夏ごろのカラーリング

地方私鉄の新製車としては非常に意欲的な車両であったが、その後の増備は行われず1編成のみの導入に留まった。 ただし、1980 - 90年代に富士急行が導入した中古のカルダン駆動車である5700形1000系はいずれも定格出力75 kWの三菱電機製の主電動機とWN駆動の組み合わせに本形式との共通点が見受けられる。

車体塗装は登場後数度変更されている。まず車体の項で述べた塗装で登場した後、雨どいから幕板上部にかけてもサランダブルーで塗装される軽微な変更がなされた。その後、富士急ハイランドのイベントや新施設開業に合わせて、『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターをあしらったデザインや『きかんしゃトーマス』のキャラクターをあしらったデザインに変更され、特定の運用に就くことになった。さらに、2007年(平成19年)には客室の内装も『きかんしゃトーマス』をあしらったデザインとなり、以降は『トーマスランド号』として運用に就いていた。

その後、車両の老朽化と部品確保が困難であることを理由として2019年2月23日のさよなら運転をもって引退した[7]。引退後はモハ5001が下吉田駅構内の「下吉田ブルートレインテラス」において保存され[8][9][10]、モハ5002は解体された。

本系列の引退によって、富士急行の保有する車両は全て他社からの譲渡車となった。また、使用されていたラッピング車両「トーマスランド号」の代替車両として、6000系電車を改装した「トーマスランド20周年記念号」が2018年(平成30年)3月21日から運行を開始している[11]

ギャラリー

脚注

注釈

  1. ^ 端子電圧375 V、一時間定格出力75 kW、定格電流224 A、定格回転数1,600 rpm、最大許容電圧1,050 V、最大回転数4,500 rpm
  2. ^ 日本車輌製造での形式。なお、他に同社で製造された台車で別設計でありながらND-112形を称するものがインドネシア国鉄向け電車(インドネシア国鉄Rheostatik電車など)に装着されていた。本来、富士急行用台車はND-113形を称するべきものであり、ミスによる重複形式であったという。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『鉄道ファン』通巻169号 p.71
  2. ^ a b c d e f g h i 『電気車の科学』通巻324号 p.7
  3. ^ a b c d e f g h i 『鉄道ファン』通巻169号 p.68
  4. ^ a b 『鉄道ファン』通巻169号 p.69
  5. ^ 日本車両鉄道同好部・鉄道史資料保存会『日車の車輌史 写真・図面集-台車編』(鉄道史資料保存会)2000年、p.233
  6. ^ 『鉄道ファン』通巻169号 p.70
  7. ^44年間ありがとうございます 2019年2月23日(土)富士急行5000形電車「トーマスランド号」営業運転終了 〜2月13日(水)より「ありがとうトーマスランド号キャンペーン」を開催します〜』(PDF)(プレスリリース)富士急行、2019年2月13日。オリジナルの2020年11月7日時点におけるアーカイブ。https://web.archive.org/web/20201107125547/https://www.fujikyu.co.jp/data/news_pdf/pdf_file1_1550104425.pdf。2020年11月7日閲覧。
  8. ^現行「トーマス号」引退へ 富士急、老朽化で来年2月- 産経新聞 2018年3月12日
  9. ^5000形トーマスランド号展示のお知らせ”. 富士急行公式サイト (2019年4月26日). 2019年6月14日閲覧。
  10. ^ “富士山の日に「トーマスランド号」ラストラン ハット卿やファン、別れ惜しむ”. 毎日新聞. (2019年2月24日). https://mainichi.jp/articles/20190224/k00/00m/040/044000c
  11. ^トーマスランド20周年記念号”. 富士急行公式サイト. 2019年6月23日閲覧。

参考文献

関連項目

他社における両開き扉と扉間にボックスシートを採用した2扉のセミクロスシート車両

外部リンク

鉄道友の会 ローレル賞選定車両
1960年代 第1回(1961年阪急2000系2300系電車(いずれも初代) 第2回(1962年国鉄401系・421系電車 第3回(1963年京王3000系電車 第4回(1964年京王5000系電車(初代) 第5回(1965年山陽電気鉄道3000系電車 第6回(1966年札幌市交通局A830形電車 第7回(1967年長野電鉄0系電車 第8回(1968年) 該当車なし 第9回(1969年東京都交通局6000形電車
1970年代 第10回(1970年大阪市交通局60系電車 第11回(1971年名鉄モ600形電車(2代) 第12回(1972年営団6000系電車 第13回(1973年小田急9000形電車 第14回(1974年西鉄2000形電車 第15回1975年国鉄24系25形客車黒部峡谷鉄道EH形電気機関車 第16回1976年国鉄キハ66系気動車東急8500系電車・富士急行5000形電車 第17回1977年上信電鉄1000形電車札幌市交通局6000形電車 第18回1978年東京都交通局新7000形電車神戸市交通局1000形電車 第19回1979年京急800形電車国鉄50系客車
1980年代 第20回1980年名鉄100系電車北総開発鉄道7000形電車富山地方鉄道14760形電車 第21回1981年国鉄117系電車長崎電気軌道2000形電車 第22回1982年福岡市交通局1000系電車 第23回1983年国鉄200系新幹線電車熊本市交通局8200形電車 第24回1984年京阪6000系電車 第25回1985年営団01系電車樽見鉄道ハイモ180形気動車 第26回1986年南海10000系電車国鉄100系新幹線電車 第27回1987年北大阪急行電鉄8000形電車近鉄7000系電車JR四国キハ185系気動車 第28回1988年仙台市交通局1000系電車 第29回1989年JR九州783系電車
1990年代 第30回1990年JR西日本221系電車JR四国2000系気動車(試作車) 第31回1991年JR東日本251系電車大阪市交通局70系電車 第32回1992年JR東日本253系電車JR九州キハ200系気動車 第33回1993年JR東海300系新幹線電車JR貨物EF200形電気機関車 第34回1994年JR貨物DF200形ディーゼル機関車 第35回1995年JR北海道キハ281系気動車 第36回1996年JR東海383系電車JR貨物コキ71形貨車 第37回1997年JR北海道731系電車 第38回1998年熊本市交通局9700形電車叡山電鉄900系電車近鉄5800系電車 第39回1999年スカイレール200形
2000年代 第40回2000年広島電鉄5000形電車新幹線700系電車JR東日本209系950番台(E231系900番台)電車 第41回2001年名鉄モ800形電車(2代)近鉄3220系5820系9020系電車シリーズ21第42回2002年JR西日本キハ187系気動車 第43回2003年岡山電気軌道9200形電車鹿児島市交通局1000形電車 第44回2004年) 該当車なし 第45回2005年JR九州800系新幹線電車長崎電気軌道3000形電車 第46回2006年名鉄2000系電車愛知高速交通100形電車広島電鉄5100形電車福岡市交通局3000系電車 第47回2007年JR東日本E233系電車西鉄3000形電車 第48回2008年JR東日本E721系電車・仙台空港鉄道SAT721系電車JR東日本キハE200形気動車 第49回2009年豊橋鉄道T1000形電車京阪3000系電車(2代)
2010年代 第50回2010年近鉄22600系電車 第51回2011年東京メトロ16000系電車 第52回2012年JR貨物HD300形ハイブリッド機関車 第53回2013年) 該当車なし 第54回2014年福井鉄道F1000形電車JR東日本E6系新幹線電車 第55回2015年JR東日本EV-E301系電車箱根登山鉄道3000形電車 第56回2016年JR東日本HB-E210系気動車四日市あすなろう鉄道新260系電車 第57回2017年JR東日本E235系電車えちごトキめき鉄道ET122形1000番台気動車静岡鉄道A3000形電車 第58回2018年JR東日本E353系電車東武500系電車鹿児島市交通局7500形電車 第59回2019年相鉄20000系電車叡山電鉄デオ730形電車「ひえい」
2020年代 第60回2020年JR四国2700系気動車 第61回2021年JR東日本E261系電車JR東海N700S系新幹線電車 第62回2022年東京メトロ17000系18000系電車京阪3850形電車 第63回2023年京都市交通局20系電車 第64回(2024年宇都宮ライトレールHU300形電車Osaka Metro400系電車
ブルーリボン賞 島秀雄記念優秀著作賞 鉄道趣味顕賞エバーグリーン賞 グローリア賞 シルバー賞