読み方:こうあつやく降圧剤 のこと。Weblio国語辞典では「降圧薬」の意味や使い方、用例、類似表現などを解説しています。">

「降圧薬」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書 (original) (raw)

血圧の管理は二次的疾患の発症予防のために重要である。

降圧薬(こうあつやく、: Anti-hypertensive)は、医薬品の分類の一つ。高血圧治療薬(こうけつあつちりょうやく)とも呼ばれる[1]

降圧治療

高血圧治療の目的は、血圧が高い状態が持続することでもたらされる脳心血管病の発症・進展・再発を抑制し、それによる死亡を減少させ、QOLの保持など健康な日常生活を支援する点にある[2]

血圧変動には日内変動から経年変化まで多様な周期的要素を含む[3]。米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)の2017年のガイドラインでは24時間自由行動下血圧測定(ABPM)を重視する立場を明確にしている[4]。また、白衣高血圧と呼ばれる家庭血圧と診療室血圧の値がそれぞれ異なる値を示す[5]状態が東北大学の今井らによって行われた大迫研究により明らかにされており[6]、ガイドラインにおいても考慮されている。

公衆衛生上は高血圧者の血圧管理改善により、国民全体の高血圧有病率を低下させ、循環器疾患の発症率を低下させる目的がある[7]。先述の米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)の2017年のガイドラインで、米国では高血圧と判断される成人が全体の46%前後となる1億300万人を超えるとみられている[8]。日本では、厚生労働省が行った2014年の調査[9]によれば、日本の高血圧人口は1010万8000人[10]に及ぶとも言われ、もはや国民的な疾患であると言える。2021年のメタ分析では、アジアでは降圧薬をスキップする傾向があるという[11]

体内で生成される降圧物質はヒスタミンなどである。

治療薬選択の大まかな考え方

アドヒアランス向上のため原則としては1日1回投与のものを選ぶ。

降圧薬を1日1回服用する際、朝よりも寝る前に服用するほうがハザード比0.55、6年間の心血管イベントに対するNNT=20と死亡率と罹患率を有意に減少させた[12]

降圧薬の投与量は低用量から開始する。

低用量から高用量への増加よりもシナジーを期待して併用療法を行った方が効果が高いと考えられている。

II度以上(160/100mmHg 以上)の高血圧では最初から併用療法を考慮する。

併用法としてはRA系抑制薬とCa拮抗薬、RA系抑制薬と利尿薬、Ca拮抗薬と利尿薬、βブロッカーとCa拮抗薬などがあげられる。

最初に投与した降圧薬で降圧効果が得られなければ作用機序の異なる降圧薬に変更する。

高血圧の薬物治療は通常、単剤あるいは低用量の2剤から開始され、降圧作用が不十分な場合には用量の増大か多剤への変更、異なる作用機序を持つ降圧薬との併用療法などが行われる。

降圧薬は多種存在し、またこれらの作用機序・薬効・薬価は様々である。

高血圧の初期薬物治療において、どのような薬物を用いるかは大規模な臨床試験の結果やガイドラインに沿って行われる。高血圧の診療ガイドラインはWHO/ISH(国際高血圧学会)によるものと米国のJNC7が国際的に主流であり、JNC7では利尿薬#チアジド系利尿薬が他のグループと比較して安価で大きな治療効果が得られることから、その使用が推奨されているが[13][14]、治療薬は個々の患者の病歴や合併症の有無などを考慮した上で選択される。

日本においても日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインが2004年に作成されており (JSH2004) 、2009年1月に改訂版 (JSH2009) 、2014年2月に改訂版 (JSH2014)[15]が発行された。国際ガイドラインは欧米での臨床試験をもとに作成されているため、日本人の高血圧治療に当てはめるには不向きな点もあるが、新ガイドラインであるJSH2009ではCASE-J試験やJIKEI-Heart試験、JATOS試験等の国内の臨床試験のデータがエビデンスとして盛り込まれた。

高血圧の患者では薬物を長期に渡って服用することになり、降圧薬の併用に加えて合併症に対する治療薬も数多く処方され結果として10種類を超えるような薬剤を服用している場合も少なくない。ADVANCE試験により合剤の有用性が示され、日本においてもARBと利尿薬の合剤が認可されている。このような複雑な処方を受けている患者に対して合剤を用い、少しでも薬の種類を少なくすることがアドヒアランスの改善に結びつくと考えられている[16]

認知機能の低下を予防する

2型または4型のアンジオテンシンII受容体を刺激する降圧薬も認知機能の低下を防ぐ可能性があり、そもそも高血圧自体が認知機能の低下と関連しているとのことである。また、血圧を120/80以下に維持することで認知機能の低下を防ぐことができるという研究もある[17]

費用対効果の問題

高血圧治療は一般的に長期にわたり、患者にとっても社会にとっても経済的負担が大きくなるため、経済的側面の考慮が必要になる[18]。この場合の医療費には、直接の降圧療法の費用だけでなく、診察、検査、脳心血管系合併症の治療などの費用を含める[18]。そして、無治療やプラセボの場合、各種の治療薬を使用した場合をそれぞれ比較し症状に応じた費用対効果の評価を行う[18]

治療薬の種類

利尿薬

利尿薬(利尿降圧薬)は尿量を増加させるための医薬品である。そもそも尿とは血液中の不純物を除去するための機構であり、生体内で産生される老廃物は腎臓糸球体で濾過されたのち尿中に排出される。一方、尿は体外への水分排泄の役割も担っている。尿量が少なく循環血液量が多い状態では血圧が高くなるため、利尿薬による水分排泄は降圧効果を示す。

糸球体濾過を受けた血液由来の水分は尿細管へと移行する。尿細管は糸球体に近い方から近位尿細管ヘンレ係蹄(下行脚および上行脚)、遠位尿細管集合管と呼ばれ、膀胱へと流れ込む。糸球体濾過を受けた水分(原尿)の9割はこれらの尿細管壁から回収されることが知られている。これを再吸収と呼び、再吸収を免れた水分のみが膀胱へと流れつき、尿として排泄される。尿の再吸収はまず尿細管壁に存在するイオン交換体によってナトリウムイオン (Na+) の再吸収によって尿細管内外に浸透圧差が作られることにより始まる。この浸透圧差を補正するためにNNa+に付随して水も尿細管外へ移動することになり、結果として水分の再吸収が行われる。現在発売されている利尿薬はこれらのイオン交換体の機能を調節することにより水分の再吸収を抑制し、尿量を増加させるものである。

チアジド系利尿薬

ヒドロクロロチアジド。

チアジド系利尿薬は遠位尿細管においてNa+およびCl-の再吸収を阻害する。上記に示した通りチアジド系利尿薬はアメリカのガイドライン (JNC7) においてその使用が推奨されており、中程度の利尿作用を有する。併用薬としての低用量のチアジド系利尿薬の使用は有効であるということがALLHAT試験で明らかになっている(ただしALLHATで用いられたエビデンスのあるチアジド系利尿薬はクロルタリドン)。この場合は利尿薬としての使用量よりも少ないことに注意が必要である。

チアジド系利尿薬は添付文章上は腎機能障害(Cr ≧ 2.0)、低カリウム血症痛風が認められる場合は使用禁忌であり、妊娠、耐糖能機能障害の場合は慎重投与ということになっている。しかしこれは利尿薬として使用する場合であり、降圧薬としてチアジド系利尿薬を用いる場合は利尿作用を期待する場合の1⁄4〜1⁄2量の併用となるため低カリウム血症、高尿酸血症、耐糖能障害といった不利益は最小限に抑えることができるとされている。それでも障害が重度の場合はカリウム保持性利尿薬ロサルタンシルニジピンアロプリノールを併用する場合もある。ただ、作用機序の問題からCr ≧ 2.0で降圧効果、利尿効果ともに無効になってしまうことは変わりない。

低用量チアジド系利尿薬は短期的には循環血症量を減少させるが長期的には末梢血管抵抗を低下させることで降圧を行うと考えられている。ADVANCE studyではACEとチアジド系利尿薬の併用薬と偽薬を比較しアドビアランスは同等であったため、利尿作用による不便さは長期的には問題とならないことが示唆されている。

代謝面の不利益から単純に高血圧治療を行うときにはβブロッカーとの併用は推奨されていない。また腎障害時(Cr ≧ 2.0)で利尿薬を使用する場合はループ利尿薬となるが、利尿作用が強い割に降圧作用は弱い傾向がある。ただし、鬱血性心不全が認められるときは鬱血の解除には有効であるためループ利尿薬を積極的に使用する。

代謝性アルカローシスは、明らかな血圧降下作用を惹起すると指摘されている。この作用がチアジド系降圧剤の降圧機序の一因子であることが指摘されている[19]

プレミネントなどARBとチアジド系利尿薬との合剤も販売されている

ループ利尿薬

フロセミド。

ループ利尿薬は強力な利尿作用を有しているが、降圧作用はそれほど強くない。ヘンレ係蹄上行脚においてNa+の再吸収に関与しているNa+/K+/2Cl−共輸送系を阻害する。これにより尿細管内外の浸透圧差が緩和され、下行脚における水の再吸収が抑制される。

カリウム保持性利尿薬

スピロノラクトン。

多くの利尿薬はナトリウムの再吸収阻害と共にカリウムの排泄増加を引き起こし、低カリウム血症を副作用としてもつ。カリウム保持性利尿薬は他の利尿薬とは逆にカリウムの補充を行うことができるため、併用することにより血中カリウム値の維持が可能となる。

カリウム保持性利尿薬であるスピロノラクトンはステロイドホルモンの一種であるアルドステロンと受容体との結合において拮抗し、Na+/K+交換系の活性化を抑制する。一方、トリアムテレンは集合管においてNa+チャネルを活性化し、細胞内Na+量を増加させる。これによりNa+/K+交換系は抑制される。カリウム保持性利尿薬はこれらの機序を介して利尿作用と血中K+増加作用を示す。

カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬: Calcium Channel Blocker, CCB)は、血管平滑筋細胞の細胞膜上に存在する電位依存性カルシウム (Ca) イオンチャネルを阻害する薬物であり、その化学構造からジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系に細分類される。筋肉の収縮にはイオンチャネルを介した細胞内へのCa2+の取り込みが大きな役割を担っており、Ca2+の取り込みが低下すると平滑筋の収縮が減弱化し、血圧の低下につながる。

2008年時点では、臨床での使用目的に発売されているカルシウム拮抗薬は全てL型カルシウムチャネルを阻害するものであるが、カルシウム拮抗薬の中でもシルニジピンのみ交感神経細胞膜に存在するN型カルシウムチャネルも阻害する作用がある。

下記に示した以外に非ジヒドロピリジン系の薬剤としてベラパミルが知られているが、日本では高血圧に対する適応は認可されておらず、不整脈虚血性心疾患に対して用いられている。血管への作用としては静脈より動脈の平滑筋に作用が強く出る。特に細動脈レベルで効果が発現していると考えられている。腎臓では輸入細動脈の拡張を行うため、糸球体内圧を上昇させる可能性があり、腎硬化症の進展予防としては相応しくないと考えられている。

心臓では洞房結節の興奮頻度の減少や房室結節の伝導抑制が効果があることが知られている。効果発現が比較的早いため、その他の薬物を積極的に用いる理由がない場合に第一選択として用いられることが多い。

カルシウム拮抗薬は薬物代謝酵素であるCYP3A4を介した代謝を受けることが知られており、同酵素を阻害する薬物の併用により血中濃度の上昇が生じる可能性がある。またグレープフルーツグレープフルーツジュース中に含まれる成分も小腸粘膜のCYP3A4を阻害することが知られており、CCBを服用中の患者に対しては、グレープフルーツやグレープフルーツジュースの摂取を避けるように指導する。

カルシウム拮抗薬で降圧薬として用いられるのはジヒドロピリジン系である。冠痙縮(異型狭心症)が多い日本では第一選択となる場合が多い。カルシウム拮抗薬は降圧効果が高く、利尿薬、βブロッカーよりも脳卒中の発症のリスクが低くなることが知られている。特にアムロジピンは最も半減期が長く、長時間作用型であり、血管拡張に伴う反射性の交感神経刺激作用が少ないため頻用されている。しかしアムロジピンには腎機能悪化抑制効果、蛋白尿抑制効果は少ないとされている。蛋白尿抑制効果はシルニジピン(アテレック)、エホニジピン(ランデル)、アゼルニジピン(カルブロック)で報告されている。

近年ではエビデンス、医療経済の面から利尿薬も再評価されているが、高尿酸血症の改善作用を持つカルシウム拮抗薬はほとんどない。例外はシルニジピンであり、尿酸低下作用をもち、利尿薬と併用しやすい(ARBではロサルタンのみが尿酸低下作用を持ち、利尿薬との合剤が発売されている)。

ジヒドロピリジン系

アムロジピン。

ニフェジピン(アダラートなど)やニカルジピン(ペルジピンなど)やアムロジピン(アムロジンやノルバスク)が含まれる分類である。

ニフェジピンはL型カルシウムチャネルのN部位に結合する。血管拡張作用、降圧作用が強く、心筋への作用がほとんどない。高血圧や冠動脈痙縮症、狭心症でよく用いられる。陰性変力作用や催不整脈作用はほとんどないと考えられている。

ニフェジピンは作用発現が早すぎて、心拍数の上昇が認められることがあったが、アダラートLなどは徐放剤とすることでその問題点を克服している。

アダラートカプセルは徐放剤ではないため高血圧緊急症における迅速な降圧の際に以前は用いられたが、過剰な降圧を来したり、かえって虚血性心疾患を誘発したりする可能性があると言う欠点がある。ニカルジピンは安定した点滴静注が可能である。

ペルジピンの1アンプルは10mg/10mlである。維持量が2〜10γであるため、体重が50kgならば1γは原液で3ml/hrに相当する。原液2ml/hrから開始しスケーリング対応で2〜20ml/hrの範囲で維持することが多い。副作用に頻脈性不整脈があるため心不全を合併している場合は0.5γである1.5ml/hrという低用量からスタートすることが多い。

非ジヒドロピリジン系

ベンゾチアゼピン系とフェニルアルキルアミン系が含まれるがフェニルアルキルアミン系は降圧薬として使用することはほとんどない。ベンゾチアゼピン系にはジルチアゼム(ヘルベッサーなど)が含まれる。ジルチアゼムはL型カルシウムチャネルのD部位に結合する。ベラパミルが結合するV部位とは重なっているため、併用すると効果が落ちる原因となる。

心臓にも血管にも作用する。マイルドな降圧、徐脈作用を期待するときに用いることがある。

房室伝道の抑制、徐脈の作用としてはベラパミルに劣るため、PSVTの停止などではあまり用いない。静注を行うのは高血圧性緊急症と不安定狭心症の時が多い。ヘルベッサー1アンプルには50mgが含まれているために3Aを5%ブドウ糖液で溶解させると1.5mg/mlとなる。体重が50kgの場合は1γが3mg/hrとなるため2ml/hrで投与すると1γ投与となる。高血圧性緊急症では5〜15γで不安定狭心症では1〜5γで維持される。ベンゾチアゼピン系とベンゾジアゼピン系は名称が似ているが全く異なる

アンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACEI)

カプトプリル。

アンジオテンシン変換酵素 (ACE) は生理活性ペプチドであり昇圧作用を有するアンジオテンシンIIの産生に関与している。さらに、ACEは降圧物質であるブラジキニンの分解に関与する酵素キニナーゼIIと同等であり、ACE阻害薬はこの酵素活性を阻害することにより、アンジオテンシンIIの産生抑制とブラジキニンの分解抑制をもたらし、結果として降圧作用を示す。ACE阻害薬は輸出細動脈を拡張させ糸球体内圧を低下させ蛋白尿の減少を行う作用がある(腎保護作用)。このため慢性腎臓病、糖尿病性腎症でよく使用される傾向がある。

ACE阻害薬は心臓のリモデリング防止作用、心筋梗塞の再発予防、心不全患者の予後改善効果があると考えられている。

Ca拮抗薬と同様の脳卒中予防効果もあるとされている。空咳の副作用が有名である。心房細動の抑制効果も知られている。特にイミダプリル(タナトリル)は糖尿病性腎症に適応がある。

アンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)

バルサルタン。

上記の機構により産生されたアンジオテンシンIIはアンジオテンシン受容体を介してその作用を発現することが知られている。

アンジオテンシン受容体にはサブタイプが存在し、アンジオテンシン受容体拮抗薬(: Angiotensin Receptor Blocker, ARB)の降圧作用はAT1受容体の遮断に基づく。いずれも妊婦への適応は禁忌である。

直接的レニン阻害薬

アリスキレン。

レニンはアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIへの変換反応を触媒する酵素であり、血圧のコントロールに関与するレニン-アンジオテンシン系の上流に位置する。

直接的レニン阻害薬 (Direct Renin Inhibitor,DRI) であるアリスキレンはレニンのAsp32とAsp215の両残基に水素結合し、その活性を抑制することで降圧効果を示す十数年ぶりの新しいクラスの降圧薬である。アリスキレンの降圧効果は持続的であり、単剤投与での24時間以上にわたって十分な降圧効果を示すとされており、ACE阻害作用を有していないためにキニン代謝による空咳などの副作用は生じにくいと考えられている。

交感神経遮断薬

交感神経の神経筋接合部にはアドレナリン受容体が存在している。アドレナリン受容体は大きくα受容体とβ受容体に分けられ、α受容体は血管平滑筋の収縮を介して血圧上昇に働くα1受容体とシナプス前膜に存在して抑制的なフィードバック機構として働くα2受容体が存在する。一方、β受容体にはβ1-3の三種類のサブタイプが存在し、β1受容体を介した心機能亢進作用やβ2受容体を介した血管平滑筋弛緩作用が血圧の制御において重要である。

α受容体遮断薬

プラゾシン。

α受容体の遮断薬には非選択的にα受容体を遮断するものと選択的にα1受容体のみを遮断するものが存在する。

非選択的遮断薬であるトラゾリンおよびフェントラミンはα2受容体に対しても阻害作用を示すことから、α2受容体を介した抑制的フィードバックが外れ、シナプス前膜から神経伝達物質であるノルアドレナリンの放出が促進される。このノルアドレナリンが循環血中を回り心臓などへ辿りつくとβ受容体の刺激を引き起こし、副作用の原因となる。

一方、α1受容体の選択的な遮断薬はα2受容体遮断作用を持たないことから、このような副次的な効果をもたらしにくい(ただし、副作用が全くないというわけではない)。

αブロッカーには心血管系の抑制効果が報告されていないため、降圧薬の第一選択にはならない。しかし脂質代謝インスリン抵抗性を改善するため脂質異常症、メタボリックシンドロームを伴う高血圧では併用薬として用いられることが多い。

早朝の血圧上昇が心血管系イベントに関連し、その上昇に交感神経の亢進が関与するとされており早朝高血圧に対してドキサゾシン(カルデナリンなど)が使用されることが多い。また前立腺肥大が合併している時も多用される傾向がある。カルデナリンの場合、アドビアランス不良の原因となるのが起立性低血圧の副作用である場合が多く、高齢者での使用では注意が必要である。カルデナリンの維持量は1日1〜4mg(分1)であるが0.5mgから開始し、徐々に増量していく。起立性低血圧は出現しても数日後に自然消失することも多いが、転倒のリスクがある患者では注意が必要となる。

β受容体遮断薬

アテノロール。

α受容体遮断薬と同じようにβ受容体遮断薬にも非選択的なものと選択的β1受容体遮断薬が存在する。

例えばプロプラノロールは非選択的なβ受容体遮断薬であるが、血管平滑筋の弛緩効果をもたらすβ2受容体を阻害することはむしろ逆に血圧を上昇させる。しかし、β1受容体阻害による心拍数・心拍出量の減少および腎臓傍糸球体細胞からのレニン放出抑制(血圧低下)とβ2受容体阻害による血圧上昇を比較した場合にβ1受容体の作用が優位であり、結果として血圧は低下する。また、β2受容体は気管支拡張にも関与しており、β2受容体遮断により気道狭窄が引き起こされるため気管支喘息の患者に対しての使用は禁忌とされる。それに対してβ1受容体選択的遮断薬はβ2受容体遮断作用を持たないことから比較的安全に使用することができる。

βブロッカーは他の降圧薬に比べて心血管系イベントの抑制効果は低く、高齢者、耐糖能障害者には第一選択とはならない。しかし心臓のリモデリング作用があるために狭心症心筋梗塞、頻脈性不整脈、大動脈解離、心不全を合併を合併する高血圧では良い適応となる。併用療法ではサイアザイド系利尿薬との併用は代謝面で不利益があると考えられている。

添付文章上はβブロッカーは喘息、高度徐脈では使用禁忌、耐糖能障害、閉塞性肺疾患、末梢動脈疾患にて慎重投与となっている。

βブロッカーの使い分けのパラメータとしてはβ1選択性、内因性交感神経刺激作用 (ISA) 、α遮断作用、脂溶性、水溶性といったものが挙げられる。主な使い分けとしては若年中年の狭心症を合併した高血圧の場合はβ1選択性のあるテノーミン(アテノロールAtenolol)、メインテート(ビソプロロールBisoprolol)、アーチスト(カルベジロールCarvedilol)などが多用される。高齢者で心拍数の低下が懸念される場合は、レクトール(セリプロロールCeliprolol)などISAがあるものが多用される。脂質代謝など代謝面への副作用が気になる場合はαβ遮断薬であるアーチスト(カルベジロール)が多用され、慢性腎臓病に対する治療にはセロケン(メトプロロールMetoprolol)、アーチストが多用される。

α1β遮断薬

α受容体遮断薬においては血圧降下に伴いフィードバックとして生じる反射性頻脈が副作用として生じるという問題点があった。しかし、α1β遮断薬は頻脈の原因となるβ1受容体も同時に阻害するため、副作用を未然に防止可能である。

α2受容体刺激薬

α2受容体はシナプス前膜に存在し、血圧の上昇に関与しているアドレナリンの放出を抑制的に制御している。妊娠高血圧症候群に対して第一選択薬として用いられることもある。

詳細は「妊娠」を参照

その他

体内生成される血圧降下物質であるヒスタミンの濃度を高める薬効成分として、ベタヒスチン(英語版)が示唆されている。ベタヒスチンはアメリカ合衆国では注意欠如多動症に対する薬効も臨床試験中である。

出典

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参考文献

関連項目

薬理学医薬品の分類
消化器/代謝A 胃酸中和剤 制酸薬 H2ブロッカー プロトンポンプ阻害薬 制吐薬 瀉下薬 止瀉薬/止痢薬 抗肥満薬 血糖降下薬 ビタミン ミネラル
血液、血液生成器官(B 抗血栓薬 抗血小板剤 抗凝固薬 血栓溶解薬 抗出血薬 血小板 凝固・線溶系 抗線維素溶解性
循環器系C 心臓療法/狭心症治療薬 強心配糖体 抗不整脈薬 昇圧薬 降圧薬 利尿薬 血管拡張薬 交感神経β受容体遮断薬 カルシウム拮抗剤 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 ACE阻害薬 ARB レニン阻害薬 脂質降下薬 スタチン フィブラート 胆汁酸捕捉因子
皮膚D 皮膚軟化剤 瘢痕形成剤 鎮痒薬 乾癬治療薬 他の皮膚薬
泌尿生殖器系G ホルモン避妊薬 排卵誘発治療 SERM 性ホルモン
内分泌器H 視床下部脳下垂体ホルモン 副腎皮質ホルモン 鉱質コルチコイド 糖質コルチコイド 性ホルモン 甲状腺ホルモン/抗甲状腺薬
感染JPQI 抗菌薬 抗生物質 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗寄生虫薬 抗原虫薬 駆虫薬 外部寄生虫駆除剤 静注用免疫グロブリン ワクチン
悪性腫瘍L01-L02 抗がん剤 代謝拮抗薬 抗腫瘍性アルキル化薬 紡錘体毒 抗悪性腫瘍薬 トポイソメラーゼ阻害薬
免疫系L03-L04 免疫調節薬免疫賦活薬 免疫抑制剤
筋肉関節M アナボリックステロイド 抗炎症薬 (NSAIDs) 抗リウマチ 副腎皮質ホルモン 筋弛緩剤 ビスホスホネート
神経N 鎮痛薬 麻酔薬(全身 局所 静脈) 食欲低下薬 ADHD治療 中毒医学 抗てんかん薬 アルツハイマー治療 抗うつ薬 片頭痛治療 抗パーキンソン病薬 抗精神病薬 抗不安薬 抑制剤 エンタクトゲン エンセオジェン 陶酔薬 幻覚剤 サイケデリック 解離性麻酔薬 譫妄誘発薬 睡眠薬/鎮静薬 気分安定薬 神経保護 スマートドラッグ 神経毒 食欲促進 セレニック 精神刺激薬 覚醒促進物質
呼吸器R 充血除去薬 気管支拡張薬 鎮咳去痰薬 抗ヒスタミン薬
感覚器S 眼科学 耳鼻咽喉科学
その他ATC(V 解毒剤 造影剤 放射性医薬品 湿潤療法
循環器系の正常構造・生理
心臓 肉眼解剖基本構造左心 左心房 - 僧帽弁 - 左心室 - 大動脈弁 右心 右心房 - 三尖弁 - 右心室 - 肺動脈弁 心房中隔 - 心室中隔 - 卵円窩 - - 乳頭筋 - 腱索 冠動脈系 大動脈基部(英語版) - 冠動脈 - 右冠動脈(英語版) - 左冠動脈前下行枝(英語版) - 左冠動脈回旋枝(英語版刺激伝導系 洞房結節 - 房室結節 - His束(英語版) - 脚(英語版) - プルキンエ繊維 顕微解剖 心内膜 | 心筋 介在板 ギャップ結合 心膜 生理学電気 心電図 P波(英語版 PQ時間 物理 心雑音 心拍数 心拍出量 心係数 ベインブリッジ反射 スターリングの法則 血圧反射機能 生化学 ANP BNP エンドセリン 昇圧薬 降圧薬 アドレナリン作動薬
血管 肉眼解剖動脈系大動脈 上行大動脈 - 大動脈弓 - 胸大動脈 - 下行大動脈 - 腹部大動脈 - 総腸骨動脈 頭頸部の動脈総頸外頸上甲状腺 上喉頭 胸鎖乳突筋枝 舌骨下枝 輪状甲状枝 腺枝 上行咽頭 後硬膜 咽頭枝 下鼓室 舌骨上枝 舌背枝 舌深 舌下 顔面 頸枝上行口蓋 扁桃 オトガイ下 腺枝 顔枝 下唇 上唇 鼻中隔 外側鼻 眼角 後頭 胸鎖乳突筋 硬膜 後頭枝 耳介 下行枝 後耳介 茎乳突孔 アブミ骨枝 耳介枝 後頭枝 浅側頭 顔面横 中側頭 頬骨眼窩 前耳介枝 前頭枝 頭頂枝 1st part: 前鼓室 深耳介 中硬膜 上鼓室 岩様部枝 副硬膜 下歯槽 オトガイ 顎舌骨筋 2nd part: 咀嚼筋 深側頭 翼突筋枝 咬筋 3rd part: 後上歯槽 眼窩下 前上歯槽 下行口蓋 大口蓋 小口蓋 翼突管 蝶口蓋 後鼻中隔枝 外側後鼻 内頸頸部 頸動脈洞 錐体部 翼突管 頚鼓 海綿静脈洞部/眼 眼窩: 後篩骨 前篩骨 前鼻中隔枝 外側前鼻枝 前硬膜枝 涙腺外側眼瞼 内側眼瞼 末端 眼窩上 滑車上 鼻背 目: 網膜中心 毛様体短後毛様体 長後毛様体 前毛様体 下垂体 上下垂体 下下垂体 大脳動脈輪 前大脳前交通 前内側視床線条体 中大脳 前外側視床線条体 眼窩前頭 前頭前 上皮質枝 下皮質枝 前側頭葉 後交通 前脈絡叢 鎖骨下椎骨 硬膜枝 脊髄 後脊髄 前脊髄 脳底: 橋 迷路 小脳 後下小脳 前下小脳 上小脳 大脳 後大脳 甲状頸下甲状腺 下喉頭 気管枝 食道枝 上行頸 咽頭枝 腺枝 頸横 浅枝 背側肩甲 肩甲上 肩峰枝 肋頸 深頸 最上肋間 カテゴリ上肢 鎖骨下動脈 - 腋窩動脈 - 上腕動脈 - 浅掌動脈弓 - 深掌動脈弓 胸部胸部大動脈 - 食道動脈 - 肋間動脈 - 上横隔動脈 - 気管支動脈 腹部 腹部大動脈 - 下横隔動脈 - 腹腔動脈 - 上腸間膜動脈 - 腎動脈 - 下腸間膜動脈 - 腰動脈 下肢外腸骨動脈 - 大腿動脈 - 膝窩動脈 - 前脛骨動脈 - 後脛骨動脈 - 腓骨動脈 - 足背動脈 - 弓状動脈静脈系大静脈上大静脈系 腕頭静脈 - 鎖骨下静脈 - 静脈角 - 内頸静脈 下大静脈系総腸骨静脈 - 外腸骨静脈 - 大腿静脈 頭頸部の静脈・静脈洞外頸 下顎後: · 浅側頭 (前耳介)後耳介頸横 - 肩甲上 - 前頸 (頸静脈弓) 内頸板間/ 大脳: 上大脳 · 浅中大脳 · 下大脳 · 大大脳 · 内大脳 (脳底, 上視床線条体) 小脳: 上小脳 · 下小脳静脈洞交会: 上矢状 · 直 (下矢状) · 後頭海綿: 蝶形骨頭頂 · 海綿間上眼 (篩骨, 網膜中心, 鼻前頭) · 下眼 ·内頸: S状: 横 (側頭錐体鱗部) · 上錐体下錐体 (脳底静脈叢, 内耳) · 顆導出 その他総顔面 · 顔面 (前頭葉, 眼窩上, 眼角, 上唇, 下唇, 深顔面) · 翼突筋 (舌背, 舌深, 舌下) · 咽頭 · 甲状腺 (上甲状腺/上喉頭, 中甲状腺)椎骨静脈後頭葉 (後頭導出) · 後頭下深頸腕頭下甲状腺 (下喉頭) - 胸腺 カテゴリ上肢上腕静脈 - 橈側皮静脈 - 尺側皮静脈 - 前腕正中皮静脈 - 橈骨静脈 - 尺骨静脈胸部 奇静脈 - 半奇静脈 - 副半奇静脈 - 気管支静脈 腹部 肝静脈 - 腎静脈 下肢大伏在静脈 - 膝窩静脈 - 小伏在静脈 - 前脛骨静脈 - 後脛骨静脈 - 足背静脈弓肺循環肺動脈 - 肺静脈 肝循環肝門脈 - 下垂体門脈 腎循環 腎動脈 - 輸入細動脈 - 糸球体 - 輸出細動脈 - 腎静脈 顕微解剖 血管内皮 生理学 圧受容器 | 頚動脈洞反射 脈波伝播速度 傍糸球体装置 生化学 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 血管内皮細胞増殖因子 内皮由来弛緩因子
麻酔麻酔科学
麻酔法 全身麻酔 鎮静 監視下麻酔管理(MAC) 処置時の鎮静・鎮痛 全静脈麻酔 TCI 神経遮断麻酔(NLA) 笑気麻酔 区域麻酔 局所麻酔 表面麻酔 神経ブロック 静脈内区域麻酔 傍頸管ブロック TAPブロック 持続創部浸潤麻酔(英語版脊髄幹麻酔 脊髄くも膜下麻酔 硬膜外麻酔 仙骨麻酔 脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔 歯科の局所麻酔(英語版ドイツ語版) 下歯槽神経ブロック(英語版寒冷麻酔 経口鎮静法
薬剤 抗コリン薬 制吐薬 ブチロフェノン ベンゾジアゼピン 全身麻酔薬 吸入麻酔薬 神経筋遮断薬 オピオイド 鎮静薬 昇圧薬 降圧薬 麻酔前投薬
手技 気道確保高度な気道確保・基本的な気道管理(英語版)) 点滴静脈注射 動脈ライン 気管支鏡 カプノグラフィ 抵抗消失法 薬物性健忘 術中神経生理学的モニター(英語版気管挿管
原理・理論 血液/ガス分配係数 濃度効果(英語版拡散性低酸素症 最小肺胞濃度 二次ガス効果英語版比重
周術期評価 ASA-PS 麻酔前評価 バイスペクトラルインデックス エントロピーモニタ フィックの法則 RCRI ゲーデルの分類 マランパチ分類 コーマック分類 筋弛緩モニタAMG・KMG・PMG(英語版)) 甲状頤間距離 術前不安
機器(英語版 麻酔器 麻酔カート ボンベ バッグバルブマスク 喉頭鏡 BIAD 口咽頭エアウェイ 経鼻エアウェイ ラリンジアルマスク ラリンジアルチューブ 気管チューブ スタイレット ダブルルーメン気管支チューブ 気管支ブロッカー 生体情報モニタ オドム指示器(英語版笑気吸入鎮静器 気化器(英語版人工呼吸 人工呼吸器 機械換気 (医学) 人工呼吸器のモード
合併症 麻酔中のアレルギー 術中覚醒 幼少期の麻酔暴露による脳への影響 覚醒時せん妄 低酸素血症 局所麻酔薬中毒 悪性高熱 鉛管現象 周術期死亡(英語版) 術後シバリング(英語版術後嘔気嘔吐 術後残存筋弛緩 覚醒遅延 喉頭痙攣 陰圧性肺水腫
サブスペシャリティ 心臓血管麻酔 小児麻酔 老年麻酔科学 集中治療医学 産科麻酔科学 脳神経外科麻酔 ペインクリニック 歯科麻酔学 患者安全 獣医麻酔科学(英語版
職種・人物 麻酔科医 歯科麻酔科医 日本の麻酔科医‎ アメリカ合衆国の麻酔科医‎
歴史 ACE混合液(英語版全身麻酔の歴史 脊髄幹麻酔の歴史
学会 日本麻酔科学会 日本臨床麻酔学会 アメリカ麻酔科学会(ASA)(英語版) 英国王立麻酔科学会(RCA)(英語版
出版物 麻酔 日本臨床麻酔学会誌
カテゴリ 麻酔の概要(英語版