治療抵抗性うつ病(TRD)に対する増強療法について|川崎市の高津心音メンタルクリニック 高津区溝の口 心療内科 精神科 (original) (raw)

公開日 2024.8.5

はじめに

うつ病に対する抗うつ薬の治療では、30%から50%で十分な反応が得られないことがあります1)。

そのような場合、他の抗うつ薬に切り替えるか、別の薬剤を組み合わせて抗うつ薬の効果を高める治療法が行われることがあります。

別の薬剤を組み合わせて効果を高める治療を増強療法(augmentation:オーグメンテイション)と呼んでいます。

2剤の抗うつ薬を十分量、必要期間使用しても効果が得られないうつ病を治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant depression : TRD)と呼んでいます。

治療抵抗性うつ病では、増強療法(augmentation:オーグメンテイション)が一般に行われます。

薬物治療のエビデンス

2022年、Nuñez らは、治療抵抗性うつ病に対する増強薬の有効性と忍容性の比較の解析を報告しています2)。

有効性は以下の順で優れている結果でした(図1)。

図1 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性(Nuñez et al., 2022)

抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性(Nuñez et al., 2022)

これらの薬剤の間で忍容性の差はありませんでした。

ノルトリプチリン(ノリトレン:発売中止)は三環系抗うつ薬で、抗うつ薬の併用は一般的に併用療法と称されるで、実際には併用療法に属すると言えます。

アリピプラゾール、クエチアピン、炭酸リチウムは以前から有効性が報告されており3)、(図2)、治療の現場でも多く使用されてきました。

図2 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性と忍容性の比較(Zhou et al., 2015)

抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性と忍容性の比較(Zhou et al., 2015)

ラモトリギン(ラミクタール)も有効性が報告されていますが4)、今回の研究で有効性が示されなかった理由として解析対象となった各研究の用量のばらつきがあったことが指摘されています2)。

また、2019年のStrawbridge らの解析では抗うつ薬のトラゾドンや近年、海外から多くの研究報告が寄せられているNMDA受容体拮抗薬のケタミンの有効性が報告されています5)、(図3)。

図3 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性(Strawbridge et al., 2019)

抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性(Strawbridge et al., 2019)

ケタミンのS-鏡像異性体であるエスケタミンは2019年に米国で認可され、治療抵抗性うつ病に使用されています。

増強療法のエビデンスでは上記で記載したZhouらの2015年の解析、Strawbridge らの2019年の解析が有名で、それに加え2022年Nuñez らの解析結果が発表され、より多くの知見が集積することになりました。

第3世代抗精神病薬による増強療法

近年は、アリピプラゾール(エビリファイ)、ブレクスピプラゾール(レキサルティ)の増強療法が多く行われています。

第3世代抗精神病薬のアリピプラゾールとブレクスピプラゾールはいずれも、上述のように、抗うつ薬の増強療法として有効であることがわかっています。

2024年4月、Terao, Kodamaにより第3世代抗精神病薬のうつ病に対する増強療法における用量反応の比較の解析が報告されました6)。

報告ではアリピプラゾールの増強療法における最大有効用量は5.5mg、ブレクスピプラゾールでは1.6mgの結果でした(図4)。

図4 アリピプラゾールとブレクスピプラゾールのうつ病増強療法における用量反応性

アリピプラゾールとブレクスピプラゾールのうつ病増強療法における用量反応性

この結果から、ブレクスピプラゾール(レキサルティ)のうつ病に対する承認用量は、1~2mgですが、実際の治療では0.5mg~1.5mgが有効な用量設定値になるといえそうです。

デバイス治療・麻酔薬を含む強化療法のエビデンス

2024年7月、Guoらは、上記の結果を踏まえ、治療抵抗性うつ病に対する8つの強化療法の有効性と忍容性の比較の解析を行いました7)。

8つの強化療法は以下となっています。

解析の結果、プラセボと比較して、ECT、ケタミン、エスケタミン、シロシビンが効果的で忍容性と有効性の面で優れていました。

有効性と忍容性の直接比較では、ケタミンが優れていました(図5)。

図5 治療抵抗性うつ病に対する強化療法の有効性と忍容性の比較

治療抵抗性うつ病に対する強化療法の有効性と忍容性の比較

これらを踏まえ、著者らは、治療抵抗性うつ病の治療の第1選択肢として、ECT、ケタミン、エスケタミン、シロシビンが推奨されると述べています。

ECTと麻酔薬の組み合わせにおける有効性の比較

ケタミンはもともと麻酔薬として、開発され、各国で麻酔薬として承認、使用されています。

ECTでは麻酔を使用して治療を行うので、当然、他の麻酔薬とケタミンの組み合わせで治療を行った場合の効果の差があるのではないかと思うところです。

2024年5月、Renらは、うつ病に対するECTにおける各麻酔薬の有効性と忍容性の比較解析を報告しています8)。

その結果、有効性ではケタミンが他の麻酔薬と比較し、ECTの効果において、優れている結果でした(図6)。

図6 うつ病に対するECTにおける各麻酔薬の有効性の比較

うつ病に対するECTにおける各麻酔薬の有効性の比較

この結果から、うつ病治療の際のECTでは、ケタミンを麻酔薬として用いることがより効果的であると示唆されます。

ただし、ECTでは、認知機能に影響がでることがあり、慎重に治療されます。

Rheeらの、プロポフォールを対象とした、ケタミンの治療効果の解析では、抑うつ症状の改善に有効であるものの、認知機能への影響は不良な結果でした8)。

そのため、効果と副作用、忍容性を十分考慮した運用が検討されます。

TMSと抗うつ薬の組み合わせによる比較

2024年8月、Rakeshらは、TMSと抗うつ薬の組み合わせを比較した解析を報告しました10)。

抗うつ薬の使用とTMSの併用は、TMS単独と比較して、うつ症状の改善が早いことが示されました。

抗うつ薬による効果の差はみられませんでしたが、研究に含まれた試験の1つの結果では、エスシタロプラムセルトラリンと比較してベンラファキシンの奏効率、寛解率が高い結果でした(図7)。

図7 TMSと組み合わせた際の各抗うつ薬の有効性

TMSと組み合わせた際の各抗うつ薬の有効性

現在はシータバースト刺激(TBS)の効果が示されており、さらに最適な抗うつ薬との組みあわせへの研究が進むことに期待がもられます。

おひとりで悩んでいませんか?

うつ症状がある場合は、我慢せず早めの心療内科・精神科への受診をおすすめします。

まずはかかりつけ内科等で相談するもの1つの方法です。

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