治療抵抗性うつ病に対する併用療法について|川崎市の高津心音メンタルクリニック 高津区溝の口 心療内科 精神科 (original) (raw)

公開日 2024.8.13

はじめに

前項のコラムで記載しましたように、一般に治療抵抗性うつ病(TRD)では増強療法が行われますが、抗うつ薬を併用する併用療法(combination therapy)が行われることもあります。

前項の治療抵抗性うつ病に対する増強療法についてのコラムで記載しました、2022年のNuñez らの報告におけるノルトリプチリン(ノリトレン)や、2019年のStrawbridgeら報告におけるトラゾドン(デジレル・レスリン)は抗うつ薬ですので、併用療法と言えます。

薬物治療のエビデンス

2022年、Henssler らは、抗うつ薬の併用療法と単剤での治療効果を比較した解析で、併用療法の有効性が高いことを報告しています1)。

更に解析結果として、併用に用いる抗うつ薬としてミルタザピン(リフレックス・レメロン)ミアンセリン(テトラミド)、トラゾドン(デジレル・レスリン)の効果が高かったことを報告しています(図1)。

図1 抗うつ薬の併用療法における併用薬の有効性の違い

抗うつ薬の併用療法における併用薬の有効性の違い

増強療法との比較

2023年、Scottらは増強療法と併用療法の効果を同時に解析し、報告しています2)。

その結果、以下の6剤の有効性が認められる結果でした(図2)。

図2 治療抵抗性うつ病に対する増強療法及び併用療法の比較

治療抵抗性うつ病に対する増強療法及び併用療法の比較

Scottらの解析は増強療法と並び、ミルタザピンの併用がやはり有効性であることを示すものでした。

カリフォルニアロケットについて

併用療法の中でもSNRIベンラファキシン(イフェクサーSR)とミルタザピン(リフレックス・レメロン)の併用が有名で、カリフォルニアロケット(California Rocket Fuel)と呼ばれています。

Blier らはSSRIのフルオキセチン単剤(日本未承認)とベンラファキシン+ミルタザピンの効果を比較し、ベンラファキシン+ミルタザピンはフルオキセチン単剤の約2倍の寛解率であったことを報告しています3)、(図3)。

図3 ベンラファキシン+ミルタザピン(カリフォルニアロケット)の効果

ベンラファキシン+ミルタザピン(カリフォルニアロケット)の効果

SUN☺D studyについて

2018年には国内の臨床試験により、うつ病に対するセルトラリンの用量及びミルタザピンの追加と変更の効果の研究結果が発表されました。

この研究ではセルトラリンは50mgと100mgで効果がかわらず、いずれの用量でも効果が不十分な場合、ミルタザピンの追加または変更が有効であり、追加または変更で寛解率が約10%上昇することが報告されています4)、(図4)。

図4 セルトラリンで反応不十分な場合のミルタザピンの追加と切り替えの効果

セルトラリンで反応不十分な場合のミルタザピンの追加と切り替えの効果

これらの結果から、第一選択薬が効果不十分な場合に併用療法を行う場合は、ミルタザピンが優れていると言えます。

他にミアンセリン(テトラミド)、トラゾドン(デジレル・レスリン)が選択肢となります。

組み合わせとして、ミルタザピンはどの薬剤にも併用効果がありますが、ミアンセリン(テトラミド)は抗セロトニン作用を有しているため、SSRIではなくSNRIと三環系抗うつ薬との併用でより効果が発揮されると考えられます。

Henssler の報告でもSSRIのフルオキセチンと三環系抗うつ薬のイミプラミンに対するミアンセリン(テトラミド)の併用効果では差がありました1)、(図5)。

図5 SSRI or 三環系抗うつ薬+ミアンセリン(テトラミド)の効果

SSRI or 三環系抗うつ薬+ミアンセリン(テトラミド)の効果

フルオキセチンとイミプラミンの比較では効果に差がないことが示されており5)、6)、イミプラミンの効果がフルオキセチンより強いからという理由ではないと言えます。

三環系抗うつ薬とミアンセリン(テトラミド)の併用療法は入院治療などで古くから行われており、その効果はすでに十分知られているものでした。

頭痛が併存している治療抵抗性うつ病に対する併用療法

三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)は長年にわたり、うつ病の治療薬として用いられとともに、片頭痛発作予防効果があり、片頭痛の予防治療に使用されてきました7)。

本邦における頭痛の診療ガイドラインにおいても、アミトリプチリンは初版から一貫してグループAに分類されています8)。

図6 日本における片頭痛予防薬の位置づけ

日本における片頭痛予防薬の位置づけ

米国頭痛学会が2024年4月に更新したポジションステイトメント(科学的根拠に基づく学会の声明)でも、引き続き有効な治療薬として位置づけされています9)。

図7 米国頭痛学会 片頭痛予防ポジションステイトメント

米国頭痛学会 片頭痛予防ポジションステイトメント

うつ病と片頭痛が併存している場合には、相互に症状が悪化しやすいことがわかっています10)。

うつ病と片頭痛が併存している治療抵抗性うつ病において、SSRIにアミトリプチリンを併用することで、うつ症状と片頭痛発作両者の改善が、SSRI単剤より有効であった研究が報告されています11)。

図8 SSRI+アミトリプチリンの併用療法におけるうつ病・片頭痛の改善効果

SSRI+アミトリプチリンの併用療法におけるうつ病・片頭痛の改善効果

片頭痛を併存した治療抵抗性うつ病ではアミトリプチリンの併用療法も選択肢になると言えます。

モノアミン酸化酵素阻害薬と他の抗うつ薬との併用

モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)はモノアミンの分解を抑制する薬剤で、日本では主にパーキンソン病に使用されますが、他国では、抗うつ薬の承認を受け、うつ病治療に使用されているものもあります。

日本では、抗うつ薬との併用はセロトニン症候群のリスクがあり、併用禁忌ですが、現在までに併用療法の効果が検討されています。

Thomasらは、2015年にレビューで、セレギリン(エフピー)とトラゾドンの併用に効果があったことを報告しています12)。

日本では、トラゾドンのみ、モノアミン酸化酵素阻害薬との併用で慎重投与となっています。

2018年、Ferreira-Garciaらは、ECT抵抗性うつ病に対するトラニルシプロミン(日本未承認)とアミトリプチリンの併用の有効性を報告しています13)。

図9 ECT抵抗性うつ病に対するトラニルシプロミンとアミトリプチリンの併用療法の効果

ECT抵抗性うつ病に対するトラニルシプロミンとアミトリプチリンの併用療法の効果

また、ミルタザピンの併用療法の有効性も報告されています14)。

おわりに

過去には併用療法に対する効果に疑問が投げかける研究も報告され、話題になりました15)。

しかし、現在は増強療法のエビデンスとともに併用療法のエビデンスも集積しており、増強療法と同様に治療に活用されることが期待されます。

おひとりで悩んでいませんか?

うつ症状がある場合は、我慢せず早めの心療内科・精神科への受診をおすすめします。
まずはかかりつけ内科等で相談するもの1つの方法です。

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